これを読んでいる君。君は男か?
 ならば幼少の頃、鑑賞したカンフー映画の真似に熱中するあまり、家の物を壊して親から叱られたという苦い経験があるはずだ。 そんなこと無いとは言わせない。
 いや、そもそも男女の性差なんてものは関係ない。いやしくも人間であるなら、カンフー映画を目にして燃えないなどという ことがあろうか。いやない。

 そんなカンフー映画の歴史はカンフーヒーローの歴史。そう言ってもあながち間違いではないほど、現在まで様々な ヒーローたちが我々の前に姿を現した。
 ジミー・ウォング、リュー・チャーフィー、ジャッキー・チェン、サモ・ハン・キンポー、ユン・ピョウ、 リー・リンチェイ、ユー・ロングァン、ドニー・イェン、etc…。まさにキラ星のごときヒーローたち!



 では、これらヒーローの頂点に輝く存在は誰であろうか?
 ここで、ブルース・リーの名前を挙げることに異を唱える者はいないと思う。

 ブルース・リー。その名は、カンフー映画ファンにとっては別格の存在だ。
 ジークンドーを創始した武道家にして、アメリカで初めて成功したアジアの映画俳優。わずか33歳という若さで ミステリアスな死を遂げた彼の存在は今なお人々の心に刻まれており、それゆえ数々のオマージュ映画が製作された。 そしてまた、それらを遥かに上回る数の偽ブルース・リー映画も…。







 死んだブルース・リーが墓の中から甦って新作映画を撮影した(本当に作品の冒頭で、リー役の 俳優がゾンビよろしく墓の中から出てくる!) という設定になっている、ブルース・K・L・リー主演の 「秘録ブルース・リー物語」 (余談だが、売れなかった頃のショー・コスギが端役で出ているらしい)。


 ブルース・リーの遺作となった「死亡遊戯」でリーの代役を務めたタン・ロンを再び主役にすえて、豪華なスタッフ (サモ・ハン・キンポーやユン・ピョウも参加していたらしい)で製作していながら、偽ブルース・リーが 新宿歌舞伎町で安酒をあおり、さらにはヘリコプターから墜落死してしまう …という悪夢のようなシーンが連発する 「死亡の塔」 (ちなみに、この作品に塔は登場しない)。


 「ミラクル・ワールド ブッシュマン」で知られる 故・ニカウ氏に霊幻道士がブルース・リーの霊を 乗り移らせた ため、ニカウ氏がカンフーを披露したうえに「アチャーッ!」とブルース・リーばりの怪鳥音を叫びまくる 「コイサンマン、キョンシーアフリカに行く」。






 …挙げていくとキリが無いので、このへんで止めておく。
 ともかく、現在まで我々は数多くの偽ブルース・リー映画を目にするという幸運に恵まれてきた。それらの中でも知名度、 インパクト、その他諸々において間違いなくトップクラスに鎮座すると思われる作品を、以下から紹介してみよう。




クローン人間ブルース・リー
怒りのスリードラゴン

原題:神威三猛龍 (THE CLONES OF BLUCE LEE)
1977年(1982年?)・香港

 いきなり大まかな内容の想像がつくようなタイトルからして見る者の度肝を抜く作品、それこそが偽ブルース・リー映画 マニアの間で伝説化している大傑作「クローン人間ブルース・リー 怒りのスリードラゴン」だ。
 しかし、このタイトルには一つだけ注意していきたいことがある。”怒りのスリードラゴン”とあるので偽ブルース・リー が3人登場する映画だと思われるだろうが、本当は4人出てくる。 看板に偽りありの超豪華版なのだ。


 それはそれとして、さっさと本題に移ろう。
 まず、この作品は原因不明で倒れたブルース・リーが担架で病院に運び込まれるシーンから物語は始まり、医師たち の手で必死の蘇生措置が行われるという、ややドキュメンタリータッチな雰囲気の中で話は進んでいく。
 だが、下図のような何気ない手術シーンにも注目すべき点が存在する。


 いまいち分かりづらいかもしれないが、右の看護士が手にしているものに注目してみよう。聴診器だ。
 驚くべき新事実。なんと、ブルース・リーが運び込まれた病院には 心電図が存在せず、聴診器で直接心音を 確認していた ようなのだ。



 こんな病院で治療されたのが運のつき。哀れ、ブルース・リーは天に召されてしまった。
 そのとき、裏の世界で暗躍する者たちがいた。その名はイギリス諜報部SBI。彼らはブルース・リー死去の報を受け取ると、 病院から彼の細胞を運び出し、それを使って ブルース・リーのクローン人間を開発する という実験に着手した。
 なお、わざわざ断り書きを入れる必要は無いと思うが、実際にSBIなどという名前のイギリス諜報組織は 存在しない。


 さて、SBIの実験は無事終了し、ブルース・リーのクローンが3体生み出されることになった。その名も…















クローン人間
ブルース・ワン
クローン人間
ブルース・ツー

クローン人間
ブルース・スリー






















 1号も2号も3号も、こんな所にクローン人間として存在していたのである。










 それはともかく、ただクローンを完成させただけでは意味が無い。ということで、クローンたちには厳しいトレーニングが 課せられることになった。
 まずは偽リー(おそらくブルース・ワン)が演舞を披露する。


 偽ブルース・リーが蟷螂拳を!
 はたして、このネタで唸る人が何人いることやら…(ブルース・リーが蟷螂拳の研究を行っていたことはコアな ファンの間では有名な事実)。知らない人間が見れば、ブルース・リーではなく 武田鉄矢主演「刑事物語」のパチモンと勘違いする のではなかろうか?。

 ちなみに、このシーンで流れるBGMは なぜか「ロッキーのテーマ」。
 おそらく無断使用だとは思うが、問題はそんなことではなく、なぜ「ジャーン、ジャジャ♪ アチャァァッ!」の「燃えよ ドラゴン」のテーマ曲を使わないのかということだ。「ロッキーのテーマ」などとは…この映画からはブルース・リーに 対する愛が感じられんのだよ、愛が! (注:そんなものは、もとから無い)






 話が脇道にそれてしまった。元に戻そう。
 さらにクローンたちにはカンフーの達人になってもらわなければ困るということで、特別に指導員が呼ばれてくることになる。


 うおおお、ヤン・スエ先生のご登場!

 よもや、ここを見ていながらヤン・スエ先生を知らぬという不届き者はおるまい。
 太極拳、空手に通じた武道家…いや、そもそもボディビルディング・香港チャンピオンの座を射止めた肉体そのもの こそが凶器となっているヤン・スエ先生!
 「燃えよドラゴン」で驚異的な骨砕きを見せ付けておきながらジョン・サクソンなどというアフロ黒人の金的蹴りの前に もろくも沈んでしまい、ブルース・リーの噛ませ犬役にもさせてもらえなかった、あのヤン・スエ先生!

 しかし、先生がいるなら貧弱なブルース・リーのクローンを作るより(以下略)。



 次に第二の先生が呼ばれてくる。


 彼が教えるのは「龍・蛇・虎・豹・鶴」の拳法! …って、おいおい。

 ブルース・リーがFOX社のオーディションで白鶴拳や虎爪功夫を見せていたことはコアなファンには周知の事実だが、 龍や豹まで揃うとブルース・りーではなく ジャッキー・チェン主演の「拳精」に出てきた五獣拳 になるのではないのか?




 ともかくもヤン・スエ先生をはじめとするカンフーの達人たちの指導により、クローン人間たちは圧倒的な戦闘力を身につけた。 ブルース・スリーなどは 還暦時の故・ジャイアント馬場に匹敵するスピードを獲得 するにいたっている。

 そこでSBIは、筋さえ通りゃ金次第でなんでもやってのける命知らず、不可能を可能にし、巨大な悪を粉砕する、俺たち クローン人間ブルース・リー! を結成したのであった。



彼らの活躍を知りたい人は次ページへ。

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