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コリオリ


「そ、それじゃ…また…」
「お、ありがとな、パンダ図書館まで付き合ってもらって」
「…う、ぅぅん、いいよ。魚図鑑、新しいの見つかったし」

じゃっ!と手を振って雪舟と別れたオレは借りてきたばかりの物理の本を読んでいた。
この公園はちょっとしたお気に入りなんだよな…のんびりとできるし。
秋の柔らかい日差しなんて言葉もぴったりだね。こりゃ。

オレの名前はアツシ。クラスでは物理バカで通ってる。 いや、物理のことしか考えてないってことなんだけどな。
今回借りてきたのは気象とか海洋とか…またよくわからない本なんだけど…難しいのは難しい。 こんな本、好んで読むから物理バカなんだけど…。
その本に書いてあったけど「コリオリの力」ってのがあるらしい。 難しい内容だからうまくいえないけど、

たとえば、丸いテーブルの上でキャッチボールしているとしよう。 で、二人の間をボールが飛び交う。もちろんまっすぐな軌道を描いてね。
では、このテーブルが時計回りに回転しているとどうなるか?
ボールはまっすぐ投げたつもりでも左側に曲がってしまうよね。 つまり、まっすぐな力が別の力によって捻じ曲げられる。 ってコトらしい。

高校生レベルの頭じゃここら辺が限界だから細かい突っ込みは却下だけど…面白いね。 まっすぐなのに見た目は曲がってしまう。本来の力とは関係なく左右されちゃうんだから。

…パンダ公園は昼は親子連れが、夜には恋人同士が、ま、人の往来の激しい公園だ。 フリマもあるし、なんか変なもの売ってるおじさんとかいるし、話題には事欠かない。 もちろん、散歩するにも広いしいい場所だ。
ほら、雫ちゃんが歩いてるや…へぇー、今日は犬の散歩じゃないんだ…と…ぁれ? 突然しゃがみこんじまった!ちょ、こ、こりゃヤバイんじゃないのかっ!?
あわてて雫ちゃんに駆け寄ってみる、すごく辛そうな顔をしてるよ。

「お、ちょ…だ、大丈夫?」
「…え…ぇえ…アナタは、同じクラスの…ア、アツシくん…」
「いや、そんなコトはいいから!とにかく肩につかまって!」
「そ、そんな、あの、悪いですから…」
ラチがあかないや…とにかくこのままじゃ雫ちゃん動けなくて風邪とか引いちゃうし。 い、いや、そうじゃなくて…オ、オレも混乱してるや。
とにかく、公園から家まで連れて行ってあげないと!
「ホラ!立って!ょぃっしょ…ね、歩ける?」

真っ赤な顔して本当に辛そうだ…雫ちゃんのぎゅっと肩を抱いて公園を出ることにした。 ともかく、早く家に帰してあげないと…体の弱い雫ちゃんだし、病気になっちゃうよ。

公園から雫ちゃんの家までは、ほんの数分。 とっても長く感じたけどそりゃそうだ、この姿誰かに見られたらヤバイぞ?
家には誰も居なくて、悪いと思いながらも雫ちゃんの部屋に上がらせてもらった。 ベッドに雫ちゃんを寝かせてあげると、とっても申し訳なさそうに真っ赤な顔になってしまった。
「じゃ、じゃぁ…ご、ごめんね。雫ちゃん。」
「アツシさんが謝ることなんてないですわ…私こそ、ごめんなさい…」
そのまま真っ赤になってベッドにもぐってしまった雫ちゃん。
「そ、それじゃ、きちんと寝なよ」
こっちも恥ずかしくなってきて、早々に退散することにした。

雫ちゃんの家を出るとなんか視線を感じる…ゆっくり振り向くと、そこには皆川さんが立っていた。
「…アツシ…ちょっとハナシあるんだけど…」
な、なんだろう?と思いつつそのままリキッドまで連れてこられると、突然皆川さんが険しい表情になった。
「…アツシ…アンタ雫になんかした?」
えっ!と思う間もなく皆川さんのビンタが飛んでくる!!

ッ…パシィーンッ!!

驚いている薫さんをヨソに皆川さんは続ける。
「雫はね、生まれつき身体弱いんだ。入院していたことは知ってるよね?」
「アンタ、そんな雫を無理やり…最低だよ…」
唖然として思わず皆川さんの顔を見た…目が…震えて…潤んで…あっ!
そのままリキッドを飛び出していった皆川さん。
後に残されたオレは、呆然とした。なんだ?なにが悪いんだ?オレ何かしたか?
「…アツシ……どうしたんだ?真琴があんなに怒るなんてな…ちょっとオレに話してみろ」
薫さんが呼びかける。 …ほほをさすりながら、オレはさっきの出来事を薫さんに話した。

その夜、家に帰る道すがら記憶を辿ってみた。
昼間、雫ちゃんが倒れそうになって家に連れて行ってあげてベッドに寝かせて… 皆川さんがそれを見てたみたいで、オレが雫の家に無理やり行ったと誤解して… …だと思うんだけどなぁ…
薫さんは「真琴には言っておいてやるよ」と言ってくれたので少し気が楽になったけど 誤解が解けないと、明日も睨まれたりビンタされたりするのかな?
ちょ、ちょっと…それは怖い…皆川さん女の子に人気あるし、ヘタすりゃ総スカンか?

次の日、学校に行くのは気が重かった…そりゃそうだ。死刑執行なんて大げさじゃないし、 皆川さんは噂話を広めるような人じゃない。ってのはわかってるけど、怖い…
で、でも…学校行かなきゃ…

登校中も昨日のビンタの痕が傷む。ああいう時の女残の子って強いんだなぁ… と、小さな声で呼びかけられた。
振り向くと、雫ちゃん…あ、元気になったんだね。よかったぁ。
「昨日はどうもありがとうございました。おかげで元気になりました…」
「実は…薫さんからお電話がありまして…すみません…あの…」

「アツシ…アンタ…」

後ろから声が聞こえてもう一度振り向いた。み、皆川さんっ!
「アンタ、雫のこと助けてくれてたんだってね。薫と雫から昨日電話あったよ」
「雫に泣きながら言われたよ。あの人を叩くなんてひどいってね…」

「ふふっ…そういうことなんですよ。ですから、私からもお願いします。皆川さんのこと許してもらえませんか?」
後ろから雫ちゃんの声がする。そ、そういうことか…よ、よかったぁ…
「許すも何も、オレの方こそ誤解されるような真似して…皆川さん、雫ちゃん、ごめんね」
「ふふっ…アタシこそ…」
「よかったですわ」
オレが昨日の夜から考えてた最悪のシナリオはどうやら回避されたようだ… ビンタは痛かったけどそれはそれ、ま、いいか…

その日の放課後、雫ちゃんに誘われて公園まできた。ちょっとしたデート気分だね。こりゃ。
「昨日は本当にありがとうございました。でも、そのせいで皆川さんに…」
「いいんだよ、オレだって誤解されるような、ほら、雫ちゃんの肩、がっちり抱いたりしてさ」

いろいろ雑談をしながら公園をゆっくり歩く。 雫ちゃんのこと、ペロのこと、きいろちゃんのこと。 とても楽しそうにニコニコ笑いながら話す雫ちゃんを見て、皆川さんが震えながら怒るのもわかる気がした。
そりゃそうだ、こんないい友達が危ない目に合ったらビンタの一つや二つ飛んでくるよ…

公園を抜けて、そのまま雫ちゃんを家まで送っていく。 家の前についた時に、ふと雫ちゃんがオレの目を覗き込む。なんかドキドキするな…
「アツシさん、私、ずっと入院していて…お友達とも疎遠になってしまったと思っていました」
「でも、昨日のアツシさん、それに皆川さん。みんな私のことを暖かく見ていてくださったのですね」
「わかっていた…と言えば自惚れになってしまいますが、とてもうれしくて…ありが…とう、ご、ざいます…」

最後の言葉、しゃべりながら雫ちゃんは涙を浮かべていた…

「…とても暖かい気持ち、頂きました。うれしいですね。お友達がいるって」
「だから、これからも私とお友達でいてくださ…」

「もちろんだよっ!うん!」

雫ちゃんの言葉をさえぎってオレは叫んだ。 こんなかわいい子を泣かせるようなことはしちゃだめだよ。男として。

ほんとに武器だよなぁ…皆川さんも雫ちゃんも…涙見た瞬間に「許しちゃおう」って気になる。
女の子の涙にはどんな思いも曲げられてしまう…そんな力があるみたいだ。

オレの心を動かす力、コリオリの力ってヤツかな?





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