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きいろのせなか
「な、なぁ、知佳志…ちょっと聞きたいんだけどさ?」
「なんだべ、マサト?」
「きいろちゃんって、どんな子なの?」
「急になんだべ?そんなこと聞いて」
「いや…実はね……」
ちょっと前、パンダアミューズで遊んでいるとなんだか黒山の人だかりができていた。
奥のほうにあるゲーム筐体を取り囲む男の子たち…ギャラリーかな?
と、見慣れた黄色い三つ編みと…私服の時には必ず身に着けているバンダナ。
一目できいろちゃんだとわかった。
近づこうと思った瞬間、突然ゲーム筐体を取り囲んでいる男の子たちから歓声が上がった。
「星の戦士」…それは、いまゲームセンターで話題のゲームだった。
ボクもやっているけど、いまいちコツがつかめなくていつもクリアできなかったんだ。
また歓声が上がった…なんかすごいことになっているみたいだ…。
筐体を取り囲む男の子の後ろからきいろちゃんを見ると…素人目にもわかるぐらいすごいレバー操作だった。
すごい勢いで出てきたアイテムをかたっぱしからゲットしていくきいろちゃん。
と、音楽が変わって巨大な顔の敵キャラが出てくる…あの敵、ボクは倒せないんだよな。
ふときいろちゃんを見ると陽炎のような何かが見える…なんだ…ん…
きいろちゃんの背中に、アゴのしゃくれた丸っこい顔の男が立っているような気がする…
いや、気のせいだろう…と思った瞬間!
きいろちゃんの人差し指と中指がピアノの鍵盤を叩くように交互に連打された!
…すさまじいスピードだ…これって俗にいうピアノ連射ってヤツだろうけど…速い…速すぎる…
…なんにも聞こえないみたいにきいろちゃんは無表情のままレバーを動かしている。
「次、デラ…」「そう…2つの…」「でるか?」
口々にうわさするギャラリー…そういえば、大きな目玉の敵キャラが待ち構えていると攻略雑誌の記事で読んだことがある。
ふときいろちゃんを見ると…まただ…陽炎のような何かが…
今度は、緑の球体に向かって指を振動させている男が背中に見えたような…いや、気のせいだろう…
その瞬間、きいろちゃんは親指で人差し指と中指を支えながらボタンを連打する!
…ま、まさか…あの連射方法…俗に言うケイレン連打?!?!
あれってPTAから抗議があって禁止されたような…記憶違い?
はずだった…
とうとう最後の戦艦と向き合うきいろちゃん。
ギャラリーも固唾を呑んで見守っている…
…?まただ…きいろちゃんの背中に陽炎のように立つ男がいる。同じ男。アゴがしゃくれて丸っこい顔。
男は親指を立ててクイックィッっと動かす…指の体操をしているの…か?
ふっ…と、きいろちゃんの右腕に力が入ったと思うと猛烈に親指でボタンを連打し始めた!
あ…あぁ…あの連打方法は…親指連打?あの連打方法って疲れるだけなんじゃ!!!
「きいろちゃん!」
「……雫…」
「わたしの用事のためにごめんなさいね。こんな遅くまで」
「………いい………」
「あら、ゲームしていたんですね。もういいんです?」
「……うん………ゲーム…1日……1時間だって…言われたし…」
「まぁ…それでは、帰りましょ。きいろちゃん」
きいろちゃんと連れ立って帰る森村さん。
ネームエントリー画面のトータルタイムには、ぴったり「1’00”00」と表示されていた。
「…ってなことがあったんだけど…」
「…………」
「…おぃ…知佳志………?」
「なぁ、マサト…もう少しマシな作り話はないんだべ?」
「いや!作り話じゃないって!」
「作り話でないとそんなコトあるわけないべ!」
「ボクだってそう思うけどさー!現実にさぁ…」
「ハーィハィだべ」
「ちくしょー!」
そんなこんなで結局知佳志には信じてもらえなかったけど
きいろちゃんの背中の男…あの男は幻だったんだろうか?
今となっては、ボクにもわからない。
でも、きいろちゃんの言葉は…妙に耳に残っている。
「ゲームは1日1時間…か」
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