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子悪魔天使 にぎやか系


「まったくもーっ!何やってんのよッ!バッカじゃないかしら?」

「伊織……すまん……頭に響くから……その…………」

マンションの一室に響く可愛い毒舌。ベッドでつらそうに頭に手を当てるプロデューサーに向かってビシッと人差し指を突きつけて伊織は続ける。


「だいたいね〜、自己管理が足りないのよ!あたしみたいに忙しい身じゃないでしょ?!……ま、まぁ、そりゃちょっとは忙しいかもしれないけど……」

テキパキとプロデューサーのオデコの冷えピタを貼り替えながら伊織は続ける。


「アンタが風邪引いたらあたしのお仕事なくなっちゃうじゃないの!」

「い、いや……社長に別にプロデューサーを頼んだはずだけ……」

「言い訳無用ッ!アンタとあたしでトップアイドルになるんでしょっ?!だったらアンタじゃないとダメじゃないのっ!」

顔を横に向けながら早口でまくし立てる伊織。一瞬呆気に捕られながらも伊織が何を言いたいのか感づいて にやけるプロデューサー。
その様子に「何ニヤニヤしてんのよ!」と言いながら買ってきたポカリスエットをコップに注いで手渡してくる。


冷たいポカリスエットが汗ばんだ身体に染み込む。ふと見ると衣装ケースから勝手にタオルを取り出している伊織。
少し顔を赤らめながら、それでもほっぺたを膨らませてプロデューサーを睨みつける。

「はいっ、汗!拭いてあげるから万歳して!は、や、くっ!」

「い、いやいや、いいって!いいって!ちょっ、ちょっと!」


無理やりTシャツを脱がそうとして胸に飛び込む形になった伊織。汗臭い男の胸板の厚さに驚きながら見上げると、恥ずかしそうなプロデューサーの横顔。
伊織は自分の置かれた姿を再認識して、ゆっくりとベッドから降りるとタオルを投げつけて「さっさと拭きなさいッ!」と怒ってしまう。

仕方なくTシャツを脱ごうとすると、またも伊織の声が響く。

「ア、アンタ!レディの前で裸になるなんてサイテーねっ!もうちょっと考えなさいよ!」


どうしろっていうんだ……ズキズキと痛む頭をさらに悩ませる伊織の無理難題。
とりあえず背中を向けてTシャツを脱ぐと汗をぬぐう。と、拭きながら見えない伊織に声をかける。

「伊織ー、すまないんだけどTシャツ取ってくれないか?どれでもいいからさ」

「な、なんであたしがそんなコトをしなきゃならないのよっ!自分で……あ……う、うん」

不意に声が小さくなったかと思うと、背中をつつく小さな指。
手を後ろにヒラヒラさせると乱暴にTシャツが乗せられる。受け取って着替えると今まで着ていたTシャツとタオルを丸めて枕元に置き振り向く。

「きょっ、今日だけなんだからねっ!さ、早く洗濯物渡しなさいよ」

「ありがと、伊織。助かったよ。……あぁ、洗濯物は後で俺がやっておくよ。ほら、汚いからな」

「い、いいじゃない!早く貸しなさいよ!どうせ洗濯機に入れるだけでしょ?!」

言いながら ベッドに上がりこんでプロデューサーと揉みあう形になる伊織。
丸められたTシャツを取ろうとする伊織の手を止めるプロデューサー。二人の距離が微妙に縮まり、プロデューサーの胸の中に伊織が飛び込む形になってしまった。

見上げる伊織の瞳には、無精ヒゲがうっすらと生えたプロデューサーが映る。
少し疲れた顔の その笑顔にドキドキしながらも微妙な姿勢のままで声を荒げる。

「ちょっ!何してんのよ、助けなさいよ!」

「お、俺は病人だぞ!って、ヘンなところ触るなって、伊織っ」


ひとしきり暴れた後で肩で息をしながらプロデューサーが伊織の頭を撫でる。

「伊織がやってくれる気持ちは嬉しいけど、な。やっぱり汚れ物は恥ずかしいじゃないか」

「いいじゃないの!私とアンタの仲なんだし…………ごめんなさい、風邪なのに……」

「ははは、いつもの伊織なら気にしないだろ?いいよ、はは」

──ゴホッ、ゴホッゴホッ

咳をしながらも伊織のことを気遣うプロデューサーの言葉に、少ししょんぼりしながらも明るく顔を向ける伊織。


「じゃ、じゃぁ!あたしがご飯作ってあげるわよ!どうせまともなもの食べてないんでしょ?」

「い、いやいやいや、いいって、いいって!」

嬉しそうに台所に走っていく伊織をベッドからフラフラと起き上がって追いかけるプロデューサー。
案の定、台所では鍋を片手に立ちすくむ伊織……勝手が分からない以前に料理とかもあんまりしたことないんだろう。

「あ、あははは……んー、やっぱり……体力をつけないといけないわよね!スッポンとかうなぎとか!」

「お前は風邪を引いた男に何を食わそうというんだ……まったく……」

コツンと頭を叩くと顔を赤くしながら伊織が見上げる。


「う、うるさいわねっ!早く治さなきゃあたしがトップアイドルになる計画が狂っちゃうじゃないの!」

しかし、椅子を出して疲れたように座るプロデューサーを見ていると、自然と声が小さくなる。
トボトボと近づいてきて隣に座ると、心配そうな表情で見つめる伊織。

その様子に、やはりにっこりと笑って応えるプロデューサー。
でも笑顔は少しつらそうで、時折咳き込む姿に涙目になってしまう伊織。

「なんで?ねぇ、なんで?つらいんだったら帰れって言えばいいじゃない!……バカっ、ふぇっ……ふぇぇぇぇん!」

そんな伊織の頭を抱いてプロデューサーは呟く。

「そんなこと言えるわけないだろ?可愛いアイドルを泣かせてしまって俺のほうこそ ごめんな、早く治して またプロデュースするからな」


泣いた後の赤い瞳にウサギのような表情。「ほぇ?」といいたそうな半開きの唇の伊織。
……あまりに可愛くてプロデューサーは軽くオデコにキスをする。

「ちょっ!ア、アンタ!……うぅ、は、恥ずかしいじゃないのっ!」

顔も瞳も真っ赤になった伊織が怒り半分嬉しさ半分の微妙な顔で抗議する。
そんな抗議にも、プロデューサーは嬉しそうに微笑むだけだった。



「で…………結局……電子レンジか?」

「わ、悪かったわねッ!そうよ!結局コンビニのレトルトよ!…………はぁ……」

結局、台所を使うのを止められた伊織がコンビニに買いに行ったレトルトのおかゆ。


「いや、いいよ。風邪引いたら一人でよく食べてるからさ、ははは」

電子レンジから取り出すとベッドの端に座ってスプーンを動かすプロデューサー。しょんぼりとしながら、その隣に座る伊織。
ふーふーとスプーンですくったおかゆを冷まして口に運びながら伊織の頭を撫でる。

「ありがとう、伊織……元気になってきたよ」

「ウ、ウソついても無駄なんだから!さっさと治しなさいよ!」


言いながら、伊織は満面の笑みを浮かべていた。
その視線の先には、自分をトップアイドルに必ず導いてくれると信じている大切な男性の姿があるのだった。





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