この道わが旅 夢幻工房入り口 -> 2次創作



一番!!


春香Bランク以上でドームコンサート成功のTRUEエンドを見たプロデューサーさんだけ、見てくださいね。









「私の将来のため……」

あの日、最後の言葉。

私のアイドルとしての将来のために、自分と一緒に過ごして勝ち取った地位を守るために。
あえて、私と距離を置くことを宣言してくれた彼。

今になって、ううん。もう一度アイドルとして生活した3年間ずっと。

毎日、彼ならどう考えるんだろう、どういって励ましてくれるだろう。
そんなコトを考えながら過ごした3年間。

正直、今のプロデューサーに不満があるわけじゃないけど……あの人の影響が大きすぎて。

……だから、今日という日を迎えている。


「みなさーん!今日はありがとうございまーす!!」

ドームのど真ん中、私は大きな声を張り上げる。
オーロラビジョンには、そんな私の笑顔が大きく映し出される。

ファンの人たちの大きな声。私の名前が大きなうねりとなってこだまする。
すごい熱気とざわめき……あの日よりも大きい歓声と悲鳴。

「私、明日から……普通の女の子に……もどりまーす!!」

──ばるがちゃーんっ!!やめないでー!はるかーやめないでー!
  君はボクのアイドルなんだー!あぁぁぁ!!はーるーかー!──

お兄さんたち、お姉さんたち。私よりも年上のファンの人たちも、
弟や妹みたいな、私よりも年下のファンの人たちも、高校時代からの友達も、大学生になってからの友人も。


みんなみんな、私がアイドルを引退することを止めようとしてくれている。
泣いて、叫んで、みんなの顔がぐちゃぐちゃになってる。

そして、みんなが私を見つめている。


「……私、前に充電期間を頂いたとき、ひとつ心に決めたことがありました」

私の言葉が始まるとドーム全体が静かになる。

ときどき、私の名前を叫ぶファンの人が居るけど、静かな空間。
その中心で、私はドキドキしながら言葉を選ぶ。

「充電する前に、お世話になっていたプロデューサーさん。彼と約束したことがあります」

舞台袖で見守る今のプロデューサーが慌ててる顔が目に浮かんで、ちょっと笑顔になる。
大丈夫ですよ、プロデューサーさん。もう、私だって分別はついています。

「あっ!残念ながら、週刊誌に載っているようなラブロマンスではないですよ、ふふっ。
 ……安心しました?」

──はるかちゃーん!あんしんしたー!──

私の笑顔と元気な笑い声にあわせてファンの人が叫ぶ。
ちょっとファンの人たちに笑い声が起きた。

あのファンの人、コンサートにはずっと来てくれている人だったなぁ。


「彼と約束したのは、ひとつ。充電して、手が届かなかったアイドルの頂点に挑戦するってコトです」


そう。彼と約束したこと。


私と彼とで、あと一歩手が届かなかったアイドルの頂点。

「それから3年間、私なりにがんばってきたつもりです。
 そして、私は……今、アイドルとして満足できる仕事ができて……引退を決意しました」

そこまで言って一息つく。「ふぅっ」というため息がマイクに乗ってドームに響く。
ちょっと罪悪感。この約束だけじゃなくて、本当はもっと大事な約束もしたから。


「頂点に立てたなんて、うぬぼれたことは正直言いたくないし、恥ずかしいけど……最後なんで言っちゃいます!」

──はるかちゃーん!はるかー!
  言っちゃってー!言っちゃえー!──

ファンのみんなも私が言おうとしていることを分かってくれてるんだろう。
口々に私の言葉を期待する声が聞こえる。

「私、アイドルの頂点に立ちました!!彼との約束を果たしました!!
 みなさんのおかげですっ!ありがとうございまっ……」

そこまで言って言葉に詰まってしまった。

小さな声で「ます……」と言って、口を押さえてしゃがみこみそうになる。
涙が溢れて止まらない。

「ご、ごめんな、ぅっ……ごめんなさい……泣かないって、っひっく……
 ファンの皆さんのっ、うっ、うぅ……前では、っひっく……泣かないって決めてたのにぃ……」

──はるかちゃーん!はるがー!はーるーかー!あぁぁぁっ!
  泣かないでぇー!キャーッ、泣かないでぇー!──

ファンのみんなが私を慰めてくれる。
口々に涙声のファンが叫ぶ。瞬く間にドーム全体が嗚咽の声で一杯になる。


顔をうつむかせ、必死に涙を止めようとして、それでも止まらずに嗚咽がマイクに乗ってドームを駆ける。
なんとかしなきゃ……私は元気で明るくてドジでおっちょこちょいな春香なんだから……


そんな時、気がついた。


舞台袖、今のプロデューサーの隣に……彼の姿があるのを。
必死に何か言っている。唇が必死に動いて私に言葉を投げかけている。


「……っ?あ、新しい……明日の……ため……?」

マイクに乗ってドームに響く私の声。
新しい明日のため、ケジメをつけるため。全部ひっくるめて、そして、深く考えないこと!

あの時、彼が言ってくれた言葉。

私が新しい可能性を見出せたのも、彼にケジメをつけてアイドルのトップをひた走れたのも、
強烈なスランプに落ち込んだとき、深く考えずに明るく乗り切れたのも。

全部……全部……

彼が居てくれたから。
彼が見守ってくれたから。


その彼が見てくれている。舞台袖で昔みたいに私に声をかけてくれている。
彼とのラストコンサートが頭に浮かぶ。

──春香、がんばれっ!元気と笑顔と明るい声で、ファンのみんなと明るい明日のために!


「……ひっく……私っ、私っ……が、がんばりますっ!」

涙を拭いて笑顔をカメラに向ける。私の笑顔で、みんなを元気にするんだ。


「……私、私、みなさんのために……ラ、ラストソングを歌いますっ!」


涙でぐちゃぐちゃの顔だって関係ない。
最後のアイドルとして最後の仕事を立派にこなして、ファンの人たちに笑顔で送ってもらうんだ!

元気に、にっこり笑って、私は明るく声を出す。

「ラストソングは……私の思い出の曲でーす!それは、もちろんっ!」

マイクを客席に向けて「せーのっ」と声をかける。
ドームが大きく震えて、ひとつの曲名をみんなが叫ぶ。


────太陽のジェラシー!!────


イントロが始まった瞬間に、彼との思い出がフラッシュバックする。


あの時もそうだった。

「私を一番近い場所に置いてください」

そう言ったときにかけられた言葉。
彼はびっくりした顔で、でも真面目に私の肩に手を置いて首を振った。

「春香の将来のために、今は……ダメだ」

「だったら……だったらっ!いつかアイドルを辞めたら、お願いしますっ!」

「……?!……ははっ、それまで春香が覚えていたらね」


笑って私の頭を撫でてくれて。その手が暖かくて。笑顔がまぶしくて。夜なのに身体が熱くて。


彼のそばにいるときが、一番…………。


「最後に、ひとつだけお願い聞いてください。私のワガママ聞いてください」

「ん?……またヤバいことじゃないだろうな?」

「ち、違いますよー!あ、あの、ちょっとプレゼントを。えっと、恥ずかしいから目をつぶってください」


カバンをゴソゴソと探りながら彼が目を閉じるのを待つ。
……目が閉じられたのを確認して、キョロキョロと周りを見る。


よし、誰もいない……私、どーしても我慢できませんっ。ごめんなさいっ、プロデューサーさんっ!

カバンから手を離すと、彼の肩を両手で抱いて一気に唇を奪う。

驚いて私を見つめる瞳の中に、私が映ってるのが見えて……
初めてのキスは、とっても大人の味がして……

その後、こっぴどく怒られたっけ。


間奏中にファンのみんなに頭を下げる私。

「ありがとうございますっ、ファンの皆さんのおかげで……私、ここまで大きくなれましたっ!」

顔を上げると、オーロラビジョンに私の笑顔が大きく映し出される。
ファンのみんなの歓声が一際大きくなる。

笑顔の私、元気な私、明るい私、おっちょこちょいな私、ドジな私。
その間もPVの映像がめまぐるしくバックに流れる。

みんな、こんな私が好きだから。涙なんて似合わないよね、プロデューサーさんっ!
大きく手を振って歓声に応える。

「みなさーん!わたし、みなさんのこと、わすれませーん!」


そして……歌い終わって……大興奮のドームに響く私の声。

「ありがとーございましたーっ!!私、これで……普通のドジな女の子に、もどりまーすっ!」

泣き声と笑い声が響く中、ドームのお別れコンサートは……幕を閉じた……




「はい、どーぞ」

「お、サンキュ……って、よかったのか?アイドル辞めちゃって……」

スーツ姿の彼がお弁当を手に取りながら聞く。
またその話?……私がアイドル辞めたことによっぽど未練があるのかなぁ?

「ふふっ、いいんですよ。プロデューサーさんっ……じゃなくて……あなた」


薬指に光る銀のリング。
彼の指にも光るそれは、私たちのエンゲージリング。


「でもなぁ……悪徳の野郎が散々かぎまわって大変だったんだぞ。あのあと765プロは」

「あはは、ほんとーです?末永さんだったらいいんだけどなぁー」


ゴシップ記事で有名な記者さんが、私が辞めた裏には男の影があるに違いないって
散々ウソの記事を書いてたけど。そのたびにきちんとホームページで否定して、6ヶ月。

私は実家の近くにある教会で結婚式を挙げた。

相手はもちろん。


「それみたことか、って悪徳が記事書いたけどなぁ。
 ……今までのウソ記事がたたってゼンゼン載ってなかったらしいがな」

笑いながら彼が話す。それぐらい可笑しかったんだろう。
世間ではほとんど話題にならずに私たちは結婚して、そして彼は今もプロデューサー業を続けている。

彼は結婚してからアイドルのプロデュースが増えたみたい。

なんでも独身じゃないからゴシップがつきにくいってことと、ここまで私とのことを隠し通せたんだし
他のアイドルたちのゴシップを隠すこともできるだろうって理由らしいけど。

でも、本当かな?
社長のメールだし、話半分で聞いておこうっと。


「ふふっ、後輩たちに手を出しちゃダメですよー?」

「?!……手を出すかよっ」

朝ごはんを食べてた彼が噴きだしそうになる。
椅子に座って私もお箸を手に取る。

「いっただっきまーす。……ふふっ、どうだかー?
 あー、純粋で多感な16歳の娘は、プロデューサーの毒牙にかかってアイドルを引退しちゃったしなぁ」

「お前からキスしてきたくせによく言うよ。お、卵焼き上手くなったな」

ここ最近、朝のいつもの風景。
私が夢見ていた普通の生活。一番好きな人と暮らすこと。

「始めは塩と砂糖間違えて、すごい甘いかすごいしょっぱいか、どちらかだったのになぁ」

「ひっどーい、そんなこと早く忘れてくださいっ」


彼がいれば、私は明るく元気に もっともっとがんばれる。
ニコニコ顔の私のオデコを突ついてにっこり笑う彼。

「春香、ありがと……俺は幸せだよ」

その言葉だけで、これから起こるであろう辛いことも悲しいことも、全部乗り切れる。

「私もよ、あなた」

テーブル越しに立ち上がってキス。
その味は、甘くてしょっぱい卵の味がした。





この道わが旅 夢幻工房入り口 -> 2次創作