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はじめての共同作業


あずさCランク以上である日の風景コミュを見たプロデューサーさんだけ、見てくださいね。









「おじゃましますー」

あずささんののんびりとした声が響く。

わざわざ俺のマンションまで足を運んでもらった訳は、
ついこの間の あずささんとした「カレーライスを作ってもらう」という約束。

「あらー、広くて綺麗なキッチンです。ふふっ、毎日こんなキッチンだったらお料理が楽しいのでしょうね」

「毎日って。あはは、毎日来て欲しいですけどね」


あまりにドキッとしたため思わず出た俺の一言にも

「あらー、どうしましょう。そんなお願いされたら断わる理由がありませんー」

うれしそうにコートを脱ぎながら答えるあずささん。
そのまま小さなバッグから出てきた薄いピンク色のエプロンを身にまとい、俺の隣に立つ。

「なんだか、新婚さん……って感じです……」

恥ずかしそうに呟くと、その雰囲気をかき消すように手を洗うあずささん。

「なーんちゃって、ふふっ。さ、腕によりをかけて作りますよー」

「あ、は、はい。お願いしますね、俺も手伝いますし」


慌てて冷蔵庫から人参やたまねぎを出しながら、あずささんに答える俺。

しかし、あずささんの答えは天然なのか。それとも、狙ったものなのか。
本当に、女性の気持ちはわからないよ……


ともかく、あずささんに皮剥きをお願いして鶏肉を炒め始める俺。

香ばしい鶏肉の焼ける匂いが広がる。

あずささんは以前話していた通り、ゆっくり丁寧に人参の皮を剥く。
2本の人参は綺麗にツルツルになってサクサクと切りそろえられていく。

フライパンから鶏肉をおろして鍋に入れると、今度はたまねぎのみじん切りを始める俺。
その間にジャガイモを洗うあずささん。


「たまねぎって冷やすと涙が出にくいんですよ?プロデューサーさん知ってました?」

「へー。あずささん、さすがですね」

そんなことを話しながら大きめに切ったたまねぎ半分とみじん切りのたまねぎ半分。
まずはみじん切りのたまねぎをこんがり炒めて、それから他の野菜を炒める。

その間も、丁寧にジャガイモを洗って皮を剥くあずささん。
結局、炒めた人参やたまねぎを鍋に入れてしまい手持ち無沙汰な俺は、
エプロン姿のあずささんに並んでジャガイモの皮むきを手伝い始めた。


「プロデューサーさん、男の料理って感じですね。ふふ」

手伝う俺の皮の剥き方を笑うあずささん。
そういうあずささんは丁寧に剥きすぎて、まだ1つしかできてない。

「あずささんこそ。丁寧すぎですよ?」

「そうですか?でも、丁寧に作らないと料理に可哀想ですから……あら、お鍋見ないといけませんね」

あずささんはそう言って目を細めて笑う。

そんな間も、鍋ではグツグツと人参やたまねぎが踊っている。
包丁を置いてそっとアクを取りながら柔らかさを確かめるあずささん。

竹串で人参を突いて取り出すと、ふーっと息を吹きかけて少しかじっている。

「熱っ、でも柔らかくなってます。はい、プロデューサーさん。あーん」

その人参を俺に向けて差し出すと、赤ちゃんにするみたいに口を開けるあずささん。
その笑顔が可愛すぎて、動きが止まる俺。

あずささんは、そんな俺を不思議そうにキョトンと見つめる。
と、自分が今行なった行為を思い返しているのか、みるみる顔が真っ赤になる。

「あ……あ、あはは……も、もうっ!は、恥ずかしいですー」

「あ、いや……こちらこそ」


何がこちらこそなのか分からないが、竹串に刺した人参を二人で見つめる。
あずささんが少しかじった湯気の立つ熱々の人参。

「んむっ…………あふっ、おいしく煮えてますよ、あずささん」

パクッとかぶりついてモグモグ食べる俺。
その行為に、あずささんにも笑顔が戻り、恥ずかしそうに頬に手を当てる。

「ふふっ、こういうのも新婚さんみたいで……恥ずかしいですね」

そう言って、慌てて俺から顔を背けて鍋をかき混ぜるあずささん。
鶏肉や人参が鍋の中を回転しているのが見える。

恥ずかしそうな、それでいて幸せそうなあずささんの横顔がうれしくて
手元のジャガイモの皮剥きを張り切る俺。

「全部剥いちゃいますね、あずささん」

「あっ、えっと……はい。私も分も……その、お任せしてもよろしいでしょうか?」

「もちろんっ」

ニコニコしながらジャガイモの皮を剥き、切りそろえていく俺。
そうこうしている間にいい具合に煮えてきたみたいだ。

ジャガイモは後で足すのがあずささん流。
形が残っているのがうれしいらしい。

「プロデューサーさーん。どうですかー?」

「あ、大丈夫ですよ。はい、どうぞ」

水を捨ててボウルごとジャガイモを渡す。と、手渡すときに手が触れる。
暖かいあずささんの手が俺の冷たい手を包み込み、思わずドキッとする。

「プロデューサーさん、手が冷たい……ごめんなさい、冷たい仕事させちゃって……」

「いいんですよ、あずささんの手が荒れちゃったら大変ですから」

そう言いつつも柔らかいあずささんの手にドキドキする。
二人でボウルを持って見詰め合って……ま、また、なんか恥ずかしいよな……

「あ、あの。あずささん。は、早くしちゃいましょうか」

「えっ?!あ、あの、するって……その……」

真っ赤な顔で何を想像したのか頬を染めるあずささん。


「ジャ、ジャガイモのことですよ、あずささんっ!」

「…… …… ……あ、あぁ。そ、そうですね。ジャガイモのことですよね」

二人とも相当おかしな思考になってるような気がする……
そう思いながらも、あずささんとの共同作業に心躍る俺。

その後もナスを切ってフライパンで焼いて、鍋に入れる準備を整えておく。
あずささんはサラダを作るためにキャベツを千切りにしてバックからゴソゴソと何かを出してくる。

「みかんでドレッシング作ってみたんですよ?お口に合えばよろしいのですが……」

「おっ、いいですね。楽しみにしてますよ?」


そんな風にしゃべりながらも一通り準備が済んで。
生ゴミなんかはとっくに捨て終わって、お皿もスプーンも綺麗に洗って。

手持ち無沙汰になった俺とあずささんは、なぜか二人でニコニコと鍋を見つめる。


「なんだか、今日のお料理はとっても楽しいです。ふふ、プロデューサーさんが居るおかげでしょうか?」

「あはは、俺も楽しいですよ。なんていうか……」

あずささんは俺の顔をまっすぐ見つめて、恥ずかしそうに呟く。

「本当に新婚さんみたいで……なんだかうれしくて……」


お互い、どちらともなく手を握って見詰め合うと……そのまま瞳を閉じるあずささん。
そんな二人の甘い時間は、煮立った鍋のガタガタというフタの音で途切れてしまう。

「きゃっ?!火を強くしすぎて……もうそろそろルーを入れないと……」

さらに真っ赤になってルーを用意するあずささん。
俺も、思わず……あのままだったら、前に出席したあずささんの親友の結婚式のときみたいに……。

「ふぅ……あ、俺も手伝います。ナス、入れちゃいましょう」

小さく溜息をつくと、ルーを切り入れるあずささんの手伝いを始めた。


炊き立てご飯をお皿に盛って、あずささんは少なめ。俺は少し多めに。
あずささんに手渡すと、その上を銀の綺麗なお玉がカレーを運んでお皿に流す。

その間に俺は小さなテーブルにお皿を運んでミルクをコップに注ぐ。

エプロンを外したあずささんがこちらに来るのを見計らって、椅子を引いて座ってもらう。


「ふふっ、プロデューサーさんったら。こんなのどこで覚えたんです?」

「女性には当然でしょ?」

「まぁ!そうやって誰にでも?」

微笑むあずささんがテーブルのキャンドル越しに揺らめく。


「あずささんだけですよ」

笑う俺とあずささん。無言で少し見つめ合って……
やっぱり、言葉に出さなくてもお互いに同じ感情なのかもしれない。

「さ、食べましょう。冷めちゃいますしね」

「はーい、プロデューサーさん」

いただきます、と二人でスプーンを持ち上げてひと口。
あずささんのリクエストで中辛少しと甘口を混ぜたカレー、ナスも入って一層甘くなっている。

「やっぱり甘いカレーですね、でもおいしい」

「ふふっ、甘くてごめんなさい」

恥ずかしそうに謝るあずささん。俺は首を振って答える。


「いいですよ。甘いぐらいが……俺たちにはちょうどいいんじゃないんですか?」

その言葉を恥ずかしそうに言った俺を見つめて、あずささんも顔を真っ赤にしてしまった。
ふたりとも無言のまま、でも幸せな時間が静かに流れていった。




…………次の日。


「ちょっと、あずさっ!このカレー全然辛くないじゃないの」

文句を言いながらもモグモグ食べる伊織。


「ボクはこのくらいが好きだな、あずささんおかわりっていいです?ジョギングでお腹すいちゃって……」

真はニコニコとおいしそうにカレーを平らげる。


「えーっ、持って帰っていいんですかーっ!?うっうー、弟たち喜ぶだろうなぁ」

やよいはあずささんからタッパーを貰ってうれしそうにしゃべる。


765プロの食堂に、そんなにぎやかな声が響く。
あずささんが、ちょっと作りすぎたカレーを事務所のみんなに振舞っているからだ。

「でも、あずさ。こんな甘いカレーじゃ男の人は満足しないわよ?ニシシっ」

伊織がウインクしながらあずささんに問いかける。
ニコニコしたあずささんは、頬に指を当てて考えながら一言。

「うーん、でも。昨日プロデューサーさんは美味しいって言ってくれましたよ?」

その一言に伊織の微笑が止まる。
焦りながらあずささんに問いかける。

「あずさ……プロデューサーには昨日食べて貰ったってワケ?
 もしかして作りすぎた理由って…………」

食堂の壁にもたれて頭を抱える俺を尻目に、あずささんはにっこりと答える。

「ふふっ、ご一緒に作りましたからー。楽しくて、ついー」

「あーもぅっ!ラブラブなあずさの甘いカレーだと分かったら、もっと甘くなったわ!」

お皿のカレーをすごい勢いで口いっぱいにほおばると、あずささんを睨みつける伊織。


だが、そんなことも気に留めず、俺のほうを見つめて笑うあずささん。
そのキラキラした笑顔には、伊織もやよいも真も、ただただ苦笑いするしかなかった。

スプーンを握ったまま大きく溜息をついて、伊織は悔しそうに叫ぶ。

「キーッ!!プロデューサーもあずさもカレーも、甘すぎよっ!」





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