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花のやさしさ


「…と、いうわけで転入生のサトシくんだ。みんな、仲良くな」

俺の名前はサトシ。このパンダ高校に転入してきたばかり。
2学期が始まったばかりらしくて、みんな夏休み気分が抜けてないみたいだった。
その日の午後、ホームルーム終了の鐘が鳴り放課後すぐに

「よっ!前はドコにいたんだべ?」

と話しかけてくる茶髪の男、あ、名前は知佳志だったっけ?
知佳志は北海道出身でクラスのムードメーカー…とは本人の談。 一緒にいるのは、大介と雪舟。3人で夏休みにバカなことばかりやったって言ってたっけ。
「誰が一番最初に彼女を作れるか?」ってことでクラスの女の子達を口説きまわって… 結局、大介がメイファちゃんとカップルになったらしい。
そんなことをうれしそうに知佳志が話してくれたんだっけ?
結局、知佳志自身は彼女できなかったらしいし、雪舟に至っては本当に参加したのかも怪しい。

「なんのハナシしてるのー?」
「あぁ、サトシが前にドコにいたのか聞こうとしてたんだべ!」
現れたのは白井さん。ガングロ…とまではいかないけど、日焼けした顔の女の子だ。
「あ、大介クン、メイファちゃんが呼んでたよ?」
ハッ!として席を立つ大介。「ゴメン!それじゃ!」ってすごいスピードで教室を出て行ってしまった。
知佳志や白井さんに聞いた話では、なんでも大介がメイファとカップルになった時に婚姻届まで用意されて合ったらしい… 将来は大介も中華料理ハオハオで包丁を振るうんだろうか?

時間は過ぎて夕日が校舎を照らす頃まで、たわいもない雑談をしていた。
白井さんもおっとりしているけど面白い女の子だし、なんと言っても知佳志は エンターテイナーと呼ぶに相応しかった。
その帰り道。家の近くにある公園に見たことのある人影が立っていた。 なんかちょっと寂しそうな…そんな感じで立っていたのはクラスメイトの続木さんだった。
話しかけてみようかな?

「やぁ」

…なんや?と胡散臭そうに俺を見る。 やっぱり転入生なんて覚えてないのか?なんて思っていると
「あぁ!サトシやんかっ!ゴメンなー、ウチすっかりやわー」
思い出してくれたらしい…
「なにしてるの?続木さん。」
目を丸く開いてびっくりした顔…と、とたんに笑い出す。
「つ、つ、つ、続木さんって…ちょっとーカンニンやわー。ウチむずがゆうなるし。花ちゃんでええよ」
は、花ちゃん…って!は、恥ずかしいなぁ…
「え、えっと、んじゃ…は、花ちゃん、なにしてるの?」
まぁええやろ、という顔でほいっと4ツ折のチラシを渡される。
「あんな、今度の土曜日にフリマがあるんや、よかったらきてな」
フリマ?あぁ、そういえば知佳志に聞いたぞ。続木さんはよくフリマに出品してるって。

「うん、土曜日に覗かさせてもらうよ」
「ヨッシャー、それでこそ男やでっ!アッハッハッハッ」
なんだかわからないけど背中をバンバン叩かれてしまった。 でもまぁ、フリマの下見に来てたんだな。多分。

土曜日になってフリマを覗きに行ってみた。
…いや、すごいな…
どうもパンダ市が運営しているらしくて公園に所狭しと露店が並んでいた。
「こっちやでー」と、不意に呼び止める声が聞こえる。

「ははっ、どやー?すごいやろ?今日のフリマは主催が違うからなぁ」
パラソルの下でこちらを見上げる続木さんはそう話しながら笑っていた。
「すごいね。フリマ初めてだけどこんなにすごいとは」
「そうやろー?今日はトクベツやからなー。あ、お客さん、その商品買うてってー」
大きな声、それも関西弁で次々と商品を捌く続木さん。
「それはなー…うーん、ひゃくまんえーん!キャハハハッ」
ベタベタなギャグだ…
「ごめんなー、おいでってゆったのに、コッチ商売しててー」
全然かまわない、と、いうより見ているだけで面白い…と、なると自然と
「いいよ、面白いし。なんだったら手伝おうか?」
「おっ、アリガトー。ほな、コレ並べといてや」

ホラ、売り子が一人出来上がり。

そのままお昼すぎからずっと手伝って、気がつけばフリマ終了の時間だった。
「アリガトサン。助かったわーホンマに。でもアカンなー、転入生をいきなりコキつこうてー…ニャハハハ」
手際よく売り上げを計算しながら続木さんのトークは続く。
ホントに関西系の人ってマシンガントークだ。 「ヨッシャ!手伝ってくれた御礼に今日はウチがなんかおごったろ!エエからエエから」
と、そのまま続木さんの申し出に四の五を言う暇もなくリキッドに連れて来られた。

リキッドは薫さんという人が営業している喫茶店。
落ち着いた雰囲気のお店でコーヒーは絶品らしい…とは、知佳志から聞いただけなんだけどね。
「ニャハハ、今日はフリマよーけ売れたんやでー」
「そう、よかったね。でも、よくあれだけの商品、売れたね。」
「そこが、ホレ。転入生のサトシクンがどーしても手伝いたいってゆうてなー」
「そう…こんにちわ。どうしたの?」
…正直驚いた。 クラスの中でも三つ編み、メガネ…悪く言ってしまえば地味な女の子だった皆川さんだった… 「ニャハハ、真琴〜。サトシ、驚いてるんやって」
そのとおりだった。
髪はストレートで、メガネはかけていなくて…青いワンピースに白いサンダル。 本当に同じ子なのかと見間違うぐらいだった。
「…ジロジロみないでよ」
「ご、ごめんっ。あ、あの、皆川さん…?驚いた…」
言った瞬間にムッとした表情になる皆川さん。あ、や、やばい!
「そう…文句でもある?」
「い、いやっ!ないですっ。ないですっ」
「ふふっ…冗談だよ」
知佳志のヤツ、きちんと話せよなぁ…あの皆川さんってこんなに美人なんじゃないか。
「おやぁー?サトシは真琴に見とれとんのかー?やらしーなー」
ち、違うっ!とぶんぶん顔を横に振って続木さんの向かいに座る。

「はい、コーヒー…薫が入れたんだから味は保障するよ、ふふっ」
「おおきに〜真琴〜」
で、続木さんの向かいに座ってコーヒーを飲むんだが…
おいしい…さすがあの若さで喫茶店を経営するだけはある。
コーヒーを飲みながら、ふとこの前のことが思い出される。
公園で寂しそうにしてた続木さん。
フリマの下見だと思ったけど、それ以外にも何かありそうだった。
…失礼かな?いや、でも…うーん。

と、視線が気になって目の前を見ると続木さんがジッと見ていた。

「えっ?」
「ニャハハ、あんなサトシ。転入してきてどや?」
悪戯っぽく微笑みながら続木さんが話しかける
「あんな、ウチもな、大阪から引っ越してきたねん。せやからちょっぴり親近感があんねんな」
そうなんだ。パンダ高校には地域外からも生徒が多いからなぁ…
「始めはな、ホラ、ウチってベタベタの関西弁やんか。せやからなかなかクラスに溶け込まれヘンかってな」
アイスコーヒーのストローをくるくる回しながら話す続木さん。
「せやし、引っ越してきたときはえらい苦労したんや〜」
「いっちゃん初めに真琴が話しかけてくれてな、うれしかったんや〜あん時」
すごくうれしそうに薫さんの手伝いをする皆川さんを見る続木さん。 …なんとなくその気持ちわかる気がするな…
「せやし、次の転入生は絶対にウチが初めに話しかけよっって思てたんやけど…」
「やっぱなー…恥ずかしいやん」
ニコニコ笑いながらストローでアイスコーヒーをかき回す続木さん。 カチャカチャと鳴るグラスで恥ずかしさを誤魔化すかのように。
「で、フリマに誘ってみたんや。アリガトな」
「俺のほうこそ…その、なんだ、続木さん、ありがとう」
「ニャハハ、照れるっちゅーねん。花ちゃんでええって〜」
手をひらひらさせながら恥ずかしそうに言う続木さん。
「そ、そうだったね。花ちゃん。えっと、今度フリマあるときも手伝うよ」
「ホンマに〜?ええの?」
「いいよ。買出しでも準備でもなんでもOK手伝うよ」
ニコニコ笑う花ちゃん。
そんな花ちゃんの顔を見ているうちに、俺の心も高鳴っていった。
恋と呼ぶには全然早いし、そもそも会って1週間も経ってない。
でもいいじゃない。
寂しい思い出を背負ったままよりも、楽しい思い出で塗りつぶしていくほうがさ。
「ほな、指きりなー」
小指を絡ませる花ちゃんは心底嬉しそうだった。





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