この道わが旅 夢幻工房入り口 -> 2次創作



私の騎士様




「レベッカ母さ〜ん!今日もありがとう。」

また、乳母のわたしをそんな呼び方で…お妃様に申し訳ないわ。
いつものようにロイ様に「いけませんわ」と声をかける。

エリウッド様のご嫡男、ロイ様…誰にでも分け隔てなくお優しいのはいいけれど、これでは他の方に教育を疑われてしまうわ…

「ロイ様…わたくしは乳母なのでございますから…」

「いいんだよレベッカ。」

突然後ろから声をかけられびっくりしてしまった。
エリウッド様がお戻りになられていたなんて…それにエリウッド様まで…
「そうは参りません」と言おうとした私を制し、エリウッド様は続けた。

「妻はそんなことで気分を害したりはしないよ。一緒に旅したレベッカならわかるだろ?それよりも申し訳なくてね。」

「いいえ…そんな、もったいないお言葉です。わたくしもロイ様のお世話ができるだけで幸せです。」

「…優しいね、レベッカは。昔と変わらない…」


そう…昔エリウッド様と一緒にエレブ大陸中を旅したとき。
そのときも、同じ言葉をエリウッド様から頂いたっけ…。

「レベッカ、いつもありがとう。ロイは誰にでも分け隔てなく優しい性格に育っている。みんな喜んでいるんだよ。レベッカのおかげだってね。
レベッカの、その優しい心がロイに伝わっている証拠だよ。昔と変わらないね。ほら、魔の島で…」

「わぁぁぁ!エ、エリウッド様!そ、その話は〜…あ、あわ…え、えっと…コホン。申し訳ございません。エリウッド様…ですが…」

見ればエリウッド様が笑ってられる。そ、そんなに面白かったですか…?はぁぁぁ…憔悴…
真っ赤になってうつむいた私の頭をそっと撫でてエリウッド様は語りかけてくださる…。

「本当に、幸せだね。ロウエンは。」





それは十数年前…エリウッド様のお父様が失踪されて…私たちの村を山賊が襲ったときから始まったのよね…


「は、はなしてッ!お、おとうさーん!」

村は山賊たちに囲まれ絶体絶命!村の男たちに混じって弓で戦っていたとき、山賊の斧に襲われて私は倒れこんでしまった。
山賊の丸太みたいな腕に抱きかかえられて……まさにそのとき彼は現れた…
颯爽と馬に乗り、剣を振りながら山賊を蹴散らすその姿は、まさしく王子様!!

「みんなッ!エリウッド様がすぐに助けに来てくださるッ!希望を捨てずに戦うんだッ!」

逆光に隠れて顔は見えないけど、緑の髪をしたカッコイイ男の人!
震える声で…もちろん怖かったからだよ?…「あ、あの…あなたは…」と問いかける私に彼は元気よく答えてくれた。

「はいッ!おれの名はロウエン。フェレ侯の嫡男エリウッド様の元、従騎士として修行中の者です。さぁ、馬に乗ってください。」

「…は…はぃ…」


村を助けてくれたロウエン様やエリウッド様のお役に立ちたくて…なにより家出したダンお兄ちゃんを探したくて
エリウッド様の旅に志願したのは、そのすぐあとだった。


そのまま長い長い旅に出た。今でもいろいろなことが思い出される…

エリウッド様やヘクトル様、リンディス様なんか雲の上の存在なのに一緒にお食事したりお話したり。
ウィルと大喧嘩したり、セインさんに何度も声をかけられたり、ルイーズ様の素敵な恋のお話を聞いたり…
弓を直してくれたレイヴァンさんにお食事を持っていってあげたり、ダーツお兄ちゃんからキレイな貝殻をもらったりもした。
ニノちゃんと一緒にお菓子焼いたり首飾り作ったのも楽しかった…いろんな思い出が頭をよぎる。




でも、一番うれしかった思い出…そして、一番怖かった思い出は…魔の島…




2回目の魔の島…総力戦となったこの戦い…霧が深くてほとんど視界が開けない場所だった。まったく慣れない暗い森だった。

リキアの森で狩りをしていたときなら2度目の場所で迷うなんてことはなかった。
でも、この森は違う…なにかおかしい…まるで、森自体が生きているように…。

私は森の中で迷ってしまい、途方に暮れていた。
もうすぐ日も暮れてしまう…このままではみんなとはぐれるどころか命も危ない。
幸いほとんど敵兵は倒したけど、ここに居るのはみんな凄腕の暗殺者ばかり…
いくら用心しても足りないことはないはず…。

そのとき後ろから何かの足音が聞こえてた…見れば光も見える…私はいつもの弓を手に取り腰の矢筒に手を入れ…あれ?
も、もしかして…矢がもうないの?この戦いが始まる前にはあったよね?あったよね?あった…よ…ね…?



すごく怖い。



とてつもなく怖い。



わかる?この怖さ!武器もない。身体も小さい。しかも女の子なのよ!



その瞬間、無我夢中で走って逃げた。森の中を…男は追いかけてくる。しかも驚異的なスピードで!
チラッと後ろを振り向くと、馬に乗ったまま何かで道を切り開いている。キラリと光る剣…剣…あぁ…武器も持たない か弱い乙女にそれはないよぉ。

その一瞬のおかげで最悪の結末に陥った。目の前に切り株があるのに気づくのが遅れてしまったのだ…
派手に転んだ私の後ろで、黒い馬から飛び降りた男が近寄ってくる…そのまま倒れた私の肩に手を…!

「うぅ…ぐすっ…な、なによッ!ど、どうするつもりよッ!」

口では強がっても、所詮女の子…ガタガタ震えてた…恋もなにも知らないままここで殺されちゃうんだわ。
私の短い人生…お優しいエリウッド様とも幼馴染のウィルとも、ちょっぴりかっこいいセインさんとも…おわかれ…
男がなにか言ってるけど、ぜんぜん聞こえなかった。もぅ、聞きたくもなかった。

もぅ!もぅ!こんなときにロウエン様も助けに来てくれないなんて…ロウエン様?なんでこんな最後にロウエン様の優しい顔が…
涙があふれてきた…そのとき気がついたの。

「お、落ち着いてください。レベッカさんッ!おれです。おれですってばッ!」

その男から聞こえてくる聞き覚えのある声…ようやく事態が飲み込めて落ち着く私。

「…ロウエン…さ…ま…?」

「そうですよ!ロウエンです。従騎士のロウエンです。
それよりもレベッカさんッ!怪我は…怪我は…怪我はないですかッ!」

あちこちと私の身体を触るロウエン様。ちょっと膝をすりむいたけどそれ以外はぜんぜん平気だった。
真剣な眼差しで、さっきまでの恐怖が抜けなくてガタガタと震える私の腕をつかみロウエン様は一気にしゃべる。

「不吉な予兆があったんですッ!…おれの、おれの、大切な人に必ず不幸なことが訪れるんですッ!
3年前は、おれのじいちゃんが…半年前は、親父が…とにかく気をつけてくださいッ!おれ、おれ…レベッカさんにもしものことがあったら…」

その瞬間ロウエン様に抱きついていた…怖いなんてもんじゃなかった。本当に死ぬかと思った。
今までに感じたことのない恐怖があった…そんな私をロウエン様はやさしく抱きしめてくれた。
一気に涙があふれてきた。

「バカッ!バカぁ…なにかなんてもんじゃないわよッ!こ、こ、怖かった…殺されちゃうかと…殺されちゃうかと思った…お、おもっ…おもったのぉ……」




しばらくロウエン様の腕の温もりを感じながら、泣きじゃくる私。
あんまり時間はたってないかもしれない、すごく時間はたったかもしれない…少し落ち着いてきて…私はふと気がついた…大切…な人?
お父さんやおじいさんぐらい…大切な…それって…えっと…あの…もしかして…?

「ぐすっ……あの…っく…ロウエン様の…大切…んっ…な人って?…ヒック…ロウエンさまの…た…いせつな…ひと……って?」

しまった!という感じで真っ赤になってしまうロウエン様。
バツが悪そうに顔を背けたロウエン様の頬に両手を当ててこちらを無理やり振り向かせるとまっすぐに見つめて問いただす。

「こ、こ、こ、コッチ向いてくださいッ!た、た、た、大切な人って…大切な人が、わ…わたし…私って…ほ、本当ですかッ!」

真っ赤になったロウエン様の顔がゆっくりと縦に振られる…それは肯定の意。

「は、は、は…はずかしいですね…で、でも、う、うれしいで…す……うれっし……うれ…う…ぅ…わぁぁぁぁぁぁぁん!」

さっきまで怖かったこと、もうだめだと思ったこと、ロウエン様に恋してた私の気持ちに気づいたこと、ロウエン様も同じだったこと。
もう一度大声で泣いちゃった。

「ぐすっ…ヒック…んっ…ん…ヒック…ぐすっ…よかった…よかったよぉ…わたしと、わたしとおんなじだったんだぁ…」
涙があふれて止まらなかった。ずっとロウエン様は私を抱きしめててくれた。
こんなロマンチックのかけらもないような場所だけど…どうしてもこの時間をもっと長く感じたかった。


「あ、あの…レベッカさん…」

「ロウエン様…レベッカって呼んで…お願い…もう少し…このまま幸せな気持ちでいさせて…」

馬に乗せられて、みんなの所に帰る私はロウエン様の背中に抱きついたまま夢見心地でしゃべる。
真っ赤なロウエン様の顔が目に浮かぶようでおかしかった。

「…ロウエン様…みんなを守るのが騎士様ですよね…でも、今だけでいいんです…今だけ…今だけ、私だけの騎士様になってください…」





無事に帰ってきた私を見て、ニノちゃんは泣き崩れてしまった。
私のことをこんなに慕ってくれているなんて…抱きしめて「ゴメンネ…」とつぶやく。

ジャファルさんが、そっとニノちゃんの肩に手を当ててつぶやく。
「ニノ…レベッカは疲れている…もう…泣くのをやめないか…」
…笑顔で彼に微笑みかけて私は言った。

「いいのよ…ジャファルさん。私が悪いんだから…こんなに心配かけちゃって…ゴメンネ。」

ジャファルさんもそのまま無理に引き離そうとせず、じっと見守ってくれている。
エリウッド様は笑いながら…私たちの頭を撫でてくれて、一言…「レベッカは優しいね。」と褒めてくださった。





この数年間で、いろんなことを聞いたりした。
リンディス様は草原に帰られて、娘が生まれたと聞いた。可愛らしくて強い女の子らしい。
セイン様とケント様はイリアに行ってしまったし…バアトルさんもとってもキレイな女の人と結婚したって聞いた。
ルイーゼ様には可愛らしい男の子と女の子が産まれたと聞いた。あのお二人のことだ、とっても聡明で勇敢で…素敵なお子様なんだろう。
レイヴァンさんはプリシラさんやルセアさんと一緒にどこかへ旅に出てしまったし、ギィくんも草原に戻ると言っていた。

でも、いいことばっかりじゃない…
エリウッド様は最近ご病気がちだし、カナスさんは奥さんと一緒に災害で亡くなってしまった。
ダーツお兄ちゃんは、ほかの海賊との戦いで海に落ちてしまって…行方知れず…らしい。
私が一番大好きと笑顔で言ってくれたニノちゃん…ジャファルさんと一緒に行方知れずだと聞いた。
双子の子供は、ベルン国境近くの孤児院に入っているらしい…

ニノちゃんがくれた首飾りを抱きしめ思う…アトス様のおっしゃったことが現実になりそうな、そんな予感。


でも…とっても、とっても、大好きな、私の騎士様が守ってくれるから…大丈夫。ぜったい…大丈夫だよ。
この子が大きくなるまで…いいえ、大きくなってからも…ずっと、ずっと幸せが続きますように…







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