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雨降って
「まてーっ!」「まちなさーいっ!」
いなり山でのデスコマンダーオロチとの戦いが終わり、逃げ出したオロチを追いかけるコウとうさぎ。
しかし、灰色の空がかすかに見える森の奥まで追いかけたところでオロチを見失ってしまった…
…灰色?
コウは今日の朝見た天気予報を思い出していた。
「晴れのち曇り、夕立があるかもしれません」…だったっけ?
さすがのコウでも雨に濡れてまでオロチを探す気はないらしい。
うさぎの方を振り返り声をかける。
「おっと、見失ったか……そういえば雨降りそうだぜ、うさぎ…走るぞっ!」
「えー!好き勝手言っちゃってさ、ちょっと…待ってよぉ〜」
タッタッタッタ…もと来た道を走って帰る二人。
しかし、同じような木々が生い茂る森で少し迷ってしまったようだ…いくら走っても森の中から抜け出すことができない。
さっきオロチと戦った大きな広場までまだまだかかりそうなことだけは確かだった。
「えーっ!もしかして迷っちゃったんじゃないの?アンタどうするのよー!」
…う…なんか視線が痛い…
鈍感なコウでも後ろからの冷たい視線を感じる…
うさぎはブツクサ言いながら頭を抱えているコウを追い抜くとスタスタと歩く
「だいたぃねぇ…森の中で走って追いかけっこしたら迷うのぐらいわかるじゃないさ〜」
…うぅ…反論できないよ…そりゃ正論だよ、ハイ
苦笑いを浮かべながらうさぎについて歩くコウ。
「んもぅ、あたしが先に歩いて、すーぐイナリ山の空き地まで出てあげるんだから!まっかせなさいっ!」
しゃべりながら先にたって歩き出すうさぎ。
そんな二人の背後には遠慮なしにだんだん暗闇が迫る。
うーん…完璧に迷ったなぁ…そんなことを考えながらうさぎの後ろを付いて歩くコウ。
「こういうときは明るいほうに向かって進めばいいんだから、当然のことよね〜」
対照的にうさぎは自信満々にずんずん進んでいく。
ひとしきり歩いて、それでも空き地にはつかない…さすがにうさぎもだんだん心細くなってきたのだろうか?
「…あははっ、ま、まぁ、このくらい大丈夫よ」
どんどん暗くなる森の中、無言のコウと饒舌なうさぎのコンビは木々の合間を抜けていく。
だんだんうさぎの声が小さくか細くなっているのにコウは気づかず考え込んでいる。
それとともに歩調も短くなっていることにも気づかない。
「……う、うそぉ〜…」
ひとしきり歩いて、とうとううさぎも立ち止まってしまった。
どこかで見たような、それでいて見た事ないような森の真ん中で、うさぎの呟きが小さく響く。
「…んっ?うさぎ、どうしたんだ?」
後ろからコウが声をかける。
どうやら現状を理解していないような能天気な声だったのだが、今のうさぎにとっては小馬鹿にしたような声に聞こえたようだった
「…っ!キぃ〜!どうしたもこうしたもないよっ!大体なんであたしが前歩いてるのよぉ!」
「な、なんでって!?うさぎが前歩くって言ったんじゃ…」「っくぅぅ!そんなの知らないわよっ!」
大声でわめくうさぎに唖然として驚くコウ
しかしどうやらそのコウの姿も今のうさぎには気に障るみたいだった
「もぅ!勝手に迷うならいいけど私まで巻き込まないでよぉ!」
…そ、そんなぁ…情けない顔でうさぎを見るコウだが…ふいに顔に冷たいものが触った
ふと上を見上げると木々の間から灰色の空が見えなくなって…そしてポツポツと雨まで降り始めてきた
「うっひゃぁ!雨降ってきたなぁ、どっかで雨止むの待とうぜ?」
「えー、森からさっさと抜け出そうよ!もちろんコウが先に歩いてよね?」
そんな会話を交わす間にも雨粒はどんどん大きくなり…
───ピカッ!
二人の視界が一瞬真っ白になって雷の音が鳴り響く
その刹那、土砂降りの雨が地面に叩きつけられて、本格的に降り始めてしまった
こうなってしまっては口論を続けている場合じゃないし、なにより雷に驚いて走り出す二人
きょろきょろと周りを見回し木々の奥のほうを見ながら走り、雨宿りできる場所を探す。
「あっ、あそこ!」
うさぎが指差す方向に小さな洞窟が口を開けている。
一目散にその中に駆け込み、へなへなと座り込んでしまう
「んっもーひどい雨だよ、もっと道に迷うしさぁ、ねータオルとかないの〜?」
コウは背中のリュックからタオルを取り出し、どうやったら帰ることができるかを考えながら無言でそれを差し出す
しかし、それがなんだか怒ったような顔をしているとうさぎには見えてしまった。
「…ぁ、と、当然よね」
あくまでも強がってタオルをひったくるうさぎ。
タオルを手渡すと、コウは洞窟の入り口に立って外を見始めた
─うーん…天気予報では強い夕立があるって言ってたけど、ここまでとは…
───うさぎも怒っちゃってるし、どうにかして空き地まで帰らないと。
あくまで無言で考え込んだように外を見るコウ…
────なにさ!なんで怒ってるのよ…もぅ!怒りたいのはこっちなのにっ!
その背中に向かってベーッと舌を出すと濡れた髪を拭き始めるうさぎ
髪を拭き終わるとタオルを返そうとする…が、あいかわらずコウは洞窟の外を向いたままだ。
──アタシだって早く帰りたいのに、心細いのに、勝手に怒っちゃってさぁ…
雨の音だけが響く中、ぐるぐると考えをめぐらせるうさぎ。
そりゃ森の中まで追いかけようと先に走り出したのはあたしよね…それは悪かった…と思う。
スタスタ一人で歩いて、もっと迷ってしまったのは…あたし…なんだろうなぁ…
…森で迷う原因を作ったのって…わたしなのかなぁ…
キーってなっちゃってコウに八つ当たりしたっぽいのも…あたし…
コウが怒っちゃたのも…あたし…?うそぉぉ……
ふと気が付く…もしかして、この状況の原因って…ぜーんぶあたし?
土砂降りの雨を無言で見つめるコウ
へたりこんで暗い顔をして考え込むうさぎ
その側で見上げるケイの表情も心配そうだった
しかし、そこはガールボーグを束ねる役割きっちりこなしてきたケイ。
…これは二人っきりにしたほうがよさそうね…
きちんとコウと話し合いさせるためには…っと…まず…
そう考えてガチャガチャと歩き回っているGレッドに近寄るとそっと耳打ちする
「ねぇ、Gレッド、ちょっと森を探索しない?ほら、帰り道見つかるかもしれないし」
「ム、ムゥ…いい考えだが…ケイ、君は雨は大丈夫なのか?」
わたしは平気よ、と微笑みかけるケイ。Gレッドはうなづくとコウに声をかけた。
「コウ、わたしたちは周りを見てくる、なぁに大丈夫、GFエナジーは満タンだ!」
──────チェィサーッ!
叫んで出て行く二体を無言で見送ったコウとうさぎ…沈黙の時間が数分続いた。
雨の音だけがバシャバシャと鳴り響く。
うさぎにとってもコウにとっても長い時間のように感じていた数分間。
一瞬躊躇してバツが悪そうに濡れた頭をかきながら、コウがこちらを振り向いた
「なぁ、うさぎ…ゴメンな。さっさとオロチ追いかけるの諦めてたら道に迷わないですんだのに」
「…そ、そうよ、好き勝手やっちゃってさ」
…違う、そんなこと言いたいんじゃないのに…うさぎの心の中で葛藤が起こっている
「な、機嫌直してくれよ、うさぎ」
…違うの、機嫌直すとかそんなんじゃなくて…じゃなくて…
「なぁ、なんか言ってくれよ。オレ…オレ…」
再び沈黙…コウはうつむいて暗い顔をしている
ドキドキが止まらない…あたしの胸が張り裂けそう…
なんだろ、この気持ち…コウのこと考えるだけで。
雨の音が私を寂しくさせる…本当は勝気なはずなのに…
ドキドキとした気持ちを抑えきれずに濡れたニットをギュッと抱きしめる
なんでこんなにドキドキしてるの?なぜ?どうして?コウのこと考えるだけで…考えるだけで…
考える…考え……
そ…そっか…
──そうなんだ…唐突に気が付いちゃった…
あたし、コウが好きなんだ
だから、ううん、絶対、そう、絶対ここでコウの誤解を解かないと…
素直になれないあたしだけど…コウに見捨てられちゃったら泣いちゃうかも…
「…ぁの…」
「んっ?」
あたしの細い声にコウが反応する
うつむいててもわかる、コウの視線…
「あ、あたしの言うこと聞いてくれたら許してあげないこともない、かな?」
「なんだよ?お願いって?」
これ、言っちゃったらドキドキが止まらないよ…たぶん…
心のどこかでブレーキをかけようとしてる。でも、やっぱり、今しかない…よね
たっぷり時間がかかって、搾り出すようにうさぎがつぶやくうさぎ
「……────キスして…」
へ?と驚いた顔をしているコウに向かって真っ赤になってうつむくうさぎ。
「っ、あんたが悪いのよ、こんな寂しい気持ちになるなんて!
だからっ、だからっ、キスしてくれないと素直になれない…コウに謝れない…」
「…好きな人に誤解されたままなのもイヤだし、嫌われるのはもっとイヤ
素直になれないのが悔しい…うぅ…ぅぅ…」
早口でまくし立ててコウに抱きつく…もう、あたしの気持ち…言っちゃった…
いつもの黒い服だから透けてはないけど…なぜか意識してしまうコウの視線
立ち上がってバツが悪そうなコウの肩に手を置くと、ちょっと上向きに目を閉じる。
少しして、ゆっくりと何かが近づいてくるのが目を閉じていても分かる。
…コウの息使いが聞こえる…あたし…あたし…
自分の唇に柔らかいものが触れ…我慢できずにコウを抱きしめちゃった
「…っ…んっ…」
唇から柔らかいものが離れ、目を開くとコウの顔が広がっている。
目を閉じて優しい顔をしているコウ…あたしからもう一度唇を重ねた。
「あたしのこと、いじっぱりで、おてんばだけど…ずっと見てて……大好き…」
森を抜ける道は簡単に見つかり二体は主の下に急ぐ。
あと少しで洞窟が見えるところまできたところで、ケイは立ち止まった。
「ちょっ、ちょっとタンマ、Gレッド!」
「っ…ぬぅ?なぜ止める、ケイ」
スッと指差す先には、二人が見える…コウの背中にはうさぎの腕が回されていた。
「よかった、雨降って地固まる…ね」
「っ…ム…ムゥ…わたしには…わからないことが多いんだが」
腕組みをして考え込むGレッド。
マシンボーグ特有の大柄な身体を見上げるケイの目は優しかった。
「…ふふっ…朴念仁さんね…」
そういうとブースターで飛び上がりGレッドの頭を撫でる。
まるで姉のような優しさで見つめるケイの視線と行動に首をかしげるGレッドだった。
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