この道わが旅 夢幻工房入り口 -> 2次創作







オレはデスボーグベータ…名前はない。


どこで生まれたか…そんな記憶すらない。
だが、真っ黒な闇の中に浮かび上がっている赤い瞳…耳障りな笑い声だけは記憶している。

…断片的に思い出される記憶の始まりはそんな感じだ。



次の記憶は、ゴチャゴチャとしたとことで赤いボーグとナースボーグ部隊を操る子供たちと戦った記憶…

きらめく注射器から放たれる弾丸に足をすくわれ、バランスを崩したところに突っ込んでくる赤いボーグ。
次々と切り刻まれる俺たちのデスボーグ部隊…仲間に対する友情…いや、そもそも仲間という感情すらない俺だが、
まわりのボーグが一瞬にして消えていくのには、さすがにショックを受けた。


その刹那、赤いボーグが叫び、ビームが唸る。


打ち抜かれた俺は敗北を悟った。…だが、同時にデスボーグとして生まれたはずなのに妙な感情が生まれるのを感じた。

「ゥォォァ…グァッ……負けてたまるか…必ず一矢報いてやる…」

──負けたくない──なぜかそんな感情が生まれたことを奇妙に思いながら意識は闇に落ちていった…




──ッ…ッウ……

「ぁ………き、気が付き…ました……?」

意識を取り戻したオレの側には、エンジェルレスキューが震えながら立っている
──なんだ?この小娘は…先ほどオレが戦ったヤツらの仲間なのか?


「ぇ…ぇぇっと…あのっ、その…怪しいものじゃなくて、そ、そのぉ……怪我してたから手当てを…しようと…その…」


…は?手当て?
なんだこの小娘は…さっき戦った、しかもデスボーグの俺を手当てする?

俺から見ても完全に恐怖に震えているとわかる足。
カタカタと注射器が音を立てる…ここまで震えて怖いのに手当てしようなんて…

「…ぁ……ぁの……デ、デスボーグさん…」


なぜだか知らないが、哀れみに近い感情が生まれる…俺はどうしてしまったんだ?
デスボーグとして生まれて…いや、そもそも本当にデスボーグとして生まれたのか?なんだ、俺は…本当にってなんだ?


「……俺はデスボーグか…?…なんだ…俺はいったい何者なんだッ!」

「キャァ!」


思わず叫んだ俺の言葉に驚き、可愛らしい声を出して飛び上がるエンジェルレスキュー
しかし、胸を押さえて息を整えようとしている…「おちつけ、私。おちつけ、私。」…そう小さく呟きながら…


その様子を見て、思わず笑ってしまう。
つられて笑うエンジェルレスキュー。

…どうやら震えも止まったらしく、こちらに笑顔を向けて話しかけてくる。


「わ、わたしの名前は、エレ。エンジェルレスキューのエレ。よろしく。えっと…あなたはデスボーグのベータさんだし…」

頬に指を当てて上目使いに空を見上げながら考えるエレ。
「うーん…」と唇を尖らさせて考えをめぐらせ…そして、思いついたように声をあげる。

「んー……じゃ、ベータって呼ぶね?」

ニコニコしながらこちらを見つめられる。
──この小娘、本当に俺がデスボーグだとわかっているのか?
…いや、自分自身でも自信がないが…姿かたちは紛れもなくデスボーグなんだぞ?

「…勝手にしろ」


その言葉に笑顔でぺたんと座り込むエレ。
ポケットから取り出した包帯をクルクルと腕に巻き始める。


──ん〜♪るる〜♪♪


…鼻歌を歌いながら手当てを始められてしまった。
無防備に、武器である注射器も手放して…なんなんだ…

俺も俺だ…あんな風につられて笑ったり…どうしてしまったんだ。
デスボーグとしての本能が、こんな無防備なボーグが居たなら…
すぐにでも襲い掛かるはずのデスボーグの本能が、まったく動かない。

──どうしてしまったんだ、俺は…

自分のことを考えてみる…そもそもこの行動もおかしなものだが…
デスボーグとしての俺はどこに…いや、そもそもさっきも思ったじゃないか。

記憶に残っているのは赤い瞳だけ…そして赤いボーグ…赤いボーグ?


そうだ、さすがにデスボーグといえども、俺には戦士の誇りのようなものがあるはずだ。

その戦士の誇りがナースボーグのような女子供に手を上げることを拒んでいるのだろう。
それに、完膚なきまでに叩きのめされた、あの赤いボーグに対する復讐心から、この小娘を利用しようとしているのだろう…


──そう思わないと前には進まないな…


そんなことを考えながら包帯を巻く小娘を見据える…そろそろ終わりそうだ。
体力は回復しているし、身体に受けた傷もその包帯で治るだろう。
そうなれば、長居は無用だ…俺はスッと立ち上がってエンジェルレスキューを見下ろす。


「…さ、手当ても終わったろう、もう帰りな。俺は怖いデスボーグだ」

「違うもんっ!ベータ優しいもんっ!目を見たらわかるもんっ!」


座り込んだままで俺を見つめるエレ。
ウルウルとした瞳…なんでこの小娘が泣きそうになってるんだ?


──付き合ってられないな…

「助けてくれたのはありがたいが、俺はあの赤いボーグに復讐せねばならん、じゃあな」

俺は背中を向けて歩き始める。
背中に小娘の甲高い声が聞こえる…

「えーっ、ダメだよ。まだもう少し手当てしないと…体力はヒーリングで戻ってるけど、傷が残ってるんだからー」




無視して歩き始める…周りの風景を見ると、角材に囲まれている…どうやら工事現場らしい…
しかし、ずいぶん遠くまで飛ばされたものだ。さっき戦っていたのは、あの大きなアーチのある場所だろう
工事現場の角材の群れを抜ければ、先ほどのゴチャゴチャとした場所に出れるだろうと思った矢先


「キャァー!」


絹を裂いたような叫び声…あの小娘かッ!?
わけも分からず来た道を全速力で走ると、そこには震えるエレとエイリアンインセクトが見える…

──ギチギチギチギチ…

涎をダラダラと垂らしながらエレに近づくエイリアンインセクトの様子は、怪奇そのものだ。
いや、そんなことはどうでもいい。

耳障りな羽音をさせながら襲い掛かろうとする光景に思わず叫ぶ


「おぃ、虫野郎ッ!お嬢ちゃんから離れて山に帰んな!」


──ギチギチ…メイレイスルナ……コノデスボーグメ…

こちらを一瞥して刀を向けるエイリアンインセクト
デスボーグだと油断して完全に舐めてかかっている。


──ヨワイデスボーグガナンノヨウダ…コノコムスメ、ワレノエサトナルノダ…

「弱い?なら……試してみるか?」


重心を落として構えを取り、一つ目で睨みつけ…


──ガキィッ!!


跳躍!瞬間にボディに蹴りを叩き込む!
弾き飛ばされるエイリアンインセクト

まばたきの一瞬にエレの目の前に立つベータ。
信じられないといった様子で見上げるエレ。

「……ぁ……ベ、ベータ…?」


倒れこんだエイリアンインセクトがのろのろと起き上がる…
が、その瞬間にもう一度蹴りが入り、シールドが弾かれる


「蹴り主体の格闘の相手は初めてか?間合いが違うんだぜ?」


軽くステップを踏みながら、倒れこんでいるエイリアンインセクトに声をかける
信じられないといった顔で刀を地面に突き刺し、杖代わりに起き上がる。

羽音は弱弱しく、先ほどのような威勢のよさは感じられない。


──ワレモ、コンナトコロデタオレルキハナイ…コムスメ…イノチビロイシタナ……

そう言い放つと空高く飛び上がり逃げ帰るエイリアンインセクト。
──しかし、若いな…俺にもあんな頃があった…あった?あったって…いや、今はそんなことを考えている場合ではない

完全に見えなくなってから振り返るベータ
その様子を見てパァッと顔が明るくなるエレ。


「ベータ…助けに来て…くれ…うぅ…ぐすっ……くれたんだぁ…ぅぅわぁん…」


泣きながら抱きつくエレ。
背中に冷たい感触…涙だろう…そんなに泣くな…
とりあえず、背中越しに泣くエレに向かって話しかける

「お嬢ちゃん…俺が居たからよかったようなものを…早く帰れって言っただろう?」


とりあえず、後ろを向いて目線を合わせる。
そのまま泣き止むまで頭を撫でてやる…こうやって泣く子供を慰めるのも久しぶりだな…

しばらくして──ヒック…ヒック…と嗚咽のような声を漏らしながらも、こちらを向いてニッコリと笑うエレ。
その様子を見て、もう大丈夫だと立ち上がるベータ。


「ほら、泣き止んだか?じゃ、さっさと帰れ。」

「……だって帰る方法がわかんないんだもん…」


──は?今、このお嬢ちゃん、なんて言った?なんだって……?帰る方法がわからない…?
もう一度しゃがみ込み、目線を合わせて問いただす。

「おぃ、お前…今なんて言った?」

「お前じゃないもん!エレだよ。…えっと…仲間たちとはぐれちゃって…そのときにベータを見つけたの……で、手当てしてて…」


うつむいて指を折って数えながら、オレと出会った経緯まで説明し始めるエレ。
その様子に俺はため息をつきながら…なぜかこんなことを言い出した…


「しょうがねぇ…お嬢ちゃん、ついてきな。一宿一飯の恩義ってヤツだ…お前の家までガードしてやるよ」


パァッと顔が明るくなり、大きな瞳でくりくりと見つめられる。
ちょ…そんな顔を向けないでくれ…恥ずかしくなるじゃないか…


「ホント?ホント?ホントに連れてってくれる?」

「…あぁ、本当だ。だからもう泣くなよ」


うんうんと頷きながら、また泣き出しそうになるエレ。うれし泣きなのはわかるが、こう何度も泣かれると…
まぁ、いいだろう…くるりと後ろを向いて歩き始めるベータ。

「あ、ま、まってよぉ〜」

日が暮れ始めて伸びる影を追いかけて…泣き虫のエンジェルレスキューが後ろをついてくる。
断片的な記憶しかないオレの、唯一確かだと信じられるもの…

案外、俺の後ろを危なっかしく歩くこのお嬢ちゃんだけなのかも知れない。






ベータに出会った、その夜…エレは不思議な夢を見た…


夕日をバックに真っ赤なメタルスーツに身を包み、ヘルメットを小脇に白いマフラーがたなびく姿。
背中を向けているその姿を必死に追いかける

──ハァっ…ハァ……っは……ハァ……

「ま、まって…まってよぉ…」

走りながら声をかけるエレに気が付いたのか、彼も、ゆっくりこちらを振り向きかけて……突如暗転……


真っ赤なライトの中心に立つ自分…周りは暗闇…ふと、上を見上げると暗闇に大きく光る真っ赤な瞳が見つめている
甲高い笑い声の反射する中、思わずしゃがみこんでしまうエレ。
足が震えて力が入らない…あぅあぅと何か呟くが言葉にならない…

そんな震えるエレの両足にカサカサとデスアイが這い上がってくる

「っ!?」

息を呑み、真っ青になって涙を浮かべる…が…

──スッ

隣に突然現われた真っ赤なメタルスーツ…足先のデスアイが消え去り、代わりに優しく頭を撫でられる。
なぜかとても安心して、そしてうれしくて涙ぐんでしまったエレに笑いかけてくれたような真っ赤なメタルスーツの彼。

そして、頭上の真っ赤な瞳に向かってメタルブレードが振り上げられ、一刀の元に斬り捨て……静寂……


場面が変わり、海辺に座るエレ。
さっきと同じように頭を撫でるメタルスーツの彼


「あの…」

顔を確かめようと見上げるエレ…そして…視界がぼやけ……



「あっ!あなたはっ!」



「…っと……なんだ、悪い夢でも見たのか?」

銀色の腕が目に入る。
そして、その先には真っ黒い一つ目のベータ…


──夢?


「あ……ぁ…ねぇ、ベータ…」

さっきの夢、でもベータにはなんの接点も無い…口に出しかけた言葉を飲み込む。
記憶をなくしたというけれどもデスボーグはデスボーグ…ましてやヒーローボーグではない…


でも自分にとってはヒーローのような存在…


言葉を飲み込んで黙ってしまったエレを見つめながら、しょうがないな。と言った雰囲気で呟くベータ。

「なんだい?お嬢ちゃん…子守唄なら他を当たってくれ」


「そんな子供じゃないっ!」とでも言いたそうに、ぷぅっと頬を膨らませて抗議するエレ。
だが、優しく見つめられて、動きが止まる…一つ目の真っ赤な瞳…でも夢で見たものとは違う、暖かな感じがするベータの瞳…


「そ、そんなん、そんなんじゃないけど……けど…歌って欲しくないって言ったら嘘になるけど…ってそんな、えっと、その…」


あわあわと頬を染めて、指をくるくる回しながらうつむきがちに話すエレ。
その頭を撫でながら、おかしそうに微笑むベータ。


「さぁ、お嬢ちゃん。オレみたいなデスボーグと一緒にいると、何かと気苦労も多いだろう。が、寝て明日に備えるんだな。」






──まぶしい光が差し込んでくる。


角材の山から顔を出すと、目を閉じて瞑想するベータの姿が見える。
朝の涼しい風が吹く…と、スズメがベータの側に舞い降りる。

自然と一体になっている?その様子を見て、思わず「わぁ…」と感嘆の声を漏らすエレ。
だが、その声に気が付き、スズメは大きな羽音をさせて逃げてしまった。


「…ん、なんだ…お嬢ちゃん。起きたのか。」


目を開き、こちらに向かって話しかけるベータ。
見つめられると思うと、なぜかドキドキして真っ赤になり、うつむいてしまうエレ。


「…う…うん……起きた…あの、今日は、帰るのの、お手伝い、よろしく、お願い、します。」

一言一言区切って、あからさまに動揺しているのが分かるエレのしゃべり方を可笑しく思いつつも、ベータは目の前に飛び降りる。
頭に手を置いて、ポンポンと軽く叩くと、一言。

「いくか」

と、言って歩き始める。

そのまま人目につかないようにうろうろと歩きながら、頼りないエレの記憶だけを頼りにコマンダーの少女を探す二人。
ベータが戦った商店街を抜け、住宅地を通り、公園まで出て、また住宅地に戻り…そんなことを繰り返しながらエレと共に歩くベータ。

と、とある家の庭先に出た。

花壇がたくさんあり、ウッドデッキも見える…エレの話によると、ここは自分のコマンダーと一緒に来たことがあるらしい。
と、いうことはこの近くの家かもしれないな…だいぶぐるぐると歩き回ったが、やっと目的の場所に着きそうだ…


と、思ったその瞬間、ウッドデッキの上から声が聞こえてきた


「そこのデスボーグ…エンジェルナースを連れ去って、改造しようとするとは…そんなことは、このメタルヒーローが許さないぜッ!」


見上げるとガチャボーグのシルエットが見える…先ほどの名乗りから察するにもちろんメタルヒーローだろう…
頭にハテナマークの浮いているエレを振り向き、茶化しながら言ってみる。

「俺がお前を連れ去って、デスボーグに改造するつもりだって言ってるぞ?」

えっ?といった表情で考え込んでしまうエレ。
その間にもメタルヒーローの声が聞こえる。


「さぁ、エンジェルレスキュー、もう大丈夫だぜ。そこのデスボーグはオレが倒して見せるぜ!」


スタッと目の前に着地してベータを睨みつけるメタルヒーロー。
構えを取り、左手を前に突き出し…握った手のひらを開き、くるりと上を向けてクイックイッとこちらを挑発する。


やっと合点がいったように明るい顔になってそんなメタルヒーローに話しかけるエレ。


「あの、あの、申し訳ないんですけど…別に、連れ去りとか、そうじゃなくて…えっと…その…」

だが、メタルヒーローは耳を貸さない。
典型的な猪突猛進タイプ…なのだろう…おろおろしていると、スッとベータの銀の手が目の前に現れる。


「すまないな。このお嬢ちゃんは、ちょっとした事情があってオレが守らなければならんのだ。黙って退いてくれないか?」

「なっ!よくもぬけぬけとそんなことを言えたもんだな。このデスボーグめッ!」


それはそうだろう。デスボーグは、星を滅ぼした憎きデスブレンの尖兵だ。
信じられるはずも無かろう…ならば、仕方が無い…


「しょうがないな…来いよ…拳で教えてやる…勝負だ!」


ゆっくりと腰を落として構えを取るベータ…間合いを詰めようとじりじりと近づくメタルヒーロー…
止めに入れずに、おろおろと二人の姿を見るエレ

思わず手から注射器が落ちて…


──カッ…カラァッ…ンッ…


地面に当たって乾いた音が響くと同時に二人が飛び出した!

「てぇりゃぁっ!」

「遅いっ!」


まっすぐに飛んでくる正拳を身体を反らせてかわし、間髪いれずに裏拳を叩き込もうとするベータ
その拳をよけようと、バランスを崩して背中から地面に倒れこむメタルヒーロー

だが、裏拳の体勢から、流れるように肘を持ち上げ体勢でこちらに倒れこんでくるベータを見て、とっさに転がる

──ドスッ!

何もない地面で肘を強打し、顔をしかめるベータ
…肘を庇いながらノロノロと立ち上がる、その様子を見逃さずに飛び起き反撃を開始するメタルヒーロー

ひざ立ちのベータの目の前に走りこみ、ジャンプッ!

なにっ?!とベータが上を向いた瞬間には、真後ろに着地して両腕で羽交い絞めにし…

「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

──ゴスゥッッ!

暴れるベータを力任せに持ち上げ、ジャーマンスープレックス!
ゆっくりと両腕を離し、ブリッジ状態から立ち上がる…

と、ドウッとベータの身体が地面に叩きつけられる


「っ…ハァ!み、見たかッ!」


背中の向こうで倒れるベータに向かって、吐き捨てるように叫ぶメタルヒーロー。
息は切れ、ハァハァと肩を上下させながら振り返り、距離をとる…


…しばらくピクリとも動かないベータ……だが、やがて頭を振りながら起き上がってくる…

「…ッ…ゥ……いまのは…きいたぜ………それじゃ…オレの番だな…」


ニヤリと笑ったかと思うと、まっすぐに突進してくるベータ
受け止めてやるぜと言わんばかりに構えを取って衝撃に備えるメタル…だが次の瞬間

「なにぃッ!」



両手を地面に付き、逆立ち状態のベータの両足が頭上から降ってくる
両肩に大きな衝撃が走り、たまらずひざをつくメタルヒーロー

だが、攻撃は終わらない。

反動を使って間合いを取ると片足を軸に回転し、回し蹴りをお見舞いする
その浴びせられるような蹴りを受け、横薙ぎに弾き飛ばされる

──ズササササッ…

「ガッ!…ガハッ…!」

地面を滑り、仰向けになり呻くメタルヒーロー…


「まだまだ荒削りなファイトだがそれがいい…俺にはできない戦い方だ…」

銀色の丸みを帯びた手を構えながら静かに語るベータ。


「く…お前の蹴りこそ、教科書のような戦い方だな…調子が狂うぜ…こんなデスボーグがいるなんてよ」

立ち上がり、腕を回しながら答えるメタルヒーロー。


そのまま拳が交差し、打ち合い始める二人…


拳から伝わる熱い鼓動…デスボーグから感じたことすら…いや、ほかのボーグと戦ったときにも感じたことのない感情が流れ込んでくる。
交えた拳から伝わるのは、まるで修行をつけてくれた先輩のような…いや、あの人はもう居ないんだ…

戦いの中で、忘れかけていた何かが蘇ろうとしてる…記憶の無い自分…デスボーグなのかすら分からない…
姿かたちはデスボーグだが、この感情の高ぶりは…その答えは熱い魂を持つこのメタルヒーローと戦うことで分かるかもしれない…


二人の間に戦うことで生まれる奇妙な友情のようなものが芽生え始めたそのとき、異変は起こった。





「ベ、ベ、ベ、ベータ…あ、あれ、あれ、あれぇ……」


情けない叫び声にエレの指差す方向を見ると、大量のバグボーグが空を飛んでいる。
その中心にいるのは、エイリアンインセクト…どうやら昨日のヤツが復讐に来たようだ…


──ギチギチギチギチ…ツカレハテテイルヨウダナ…コウツゴウ、コウツゴウ…


耳障りな羽音をさせながらしゃべるエイリアンインセクト。だんだんと距離が狭まる…
その様子に構えを解いてベータに話しかけるメタルヒーロー。

「お、おぃ、ありゃなんだ?お友達ってわけでもなさそうだが?」

「昨日ちょっとした事情で吹っ飛ばしたやんちゃ坊主がお礼にきたらしいな…」


軽く答える…が、どうやら、この大群を相手にするには分が悪い…特に後ろのお嬢ちゃんが…


「チッ…逃げろ…エレ…」

「…ふぇ?」


と、突然、耳に聞こえる羽音…とりあえずッ!

「単純に突っ込んできやがって!お前も…少しは、学習…しろっ!」

思いっきり蹴り飛ばされ、後ろのクローワームと共に錐揉みで落ちてゆくエイリアンインセクトを睨みつけたままベータが叫ぶ。
どうやら、ヤツの指令がないと一気に攻めてこないらしいが…


振り向くと、泣く寸前の潤んだ瞳…いつもお前はそんな眼をしているな…


「で、で、で、で、でも〜、ベ、ベータが…ベータ、死んじゃうよ」

頬に流れる涙を銀色の丸い腕でそっとすくう。
甘えるように頬を摺り寄せて見つめるエレ。

「お穣ちゃん、オレは大丈夫だ。しかし、お前は大丈夫じゃない…わかるな。わかったら、とっとと逃げな」

でもでも…と潤んだ瞳で見つめられるベータ。
そのエレの様子を見て、静かに、優しくもう一度話しかける


「…眩しいお前の笑顔…隠す暗い闇を、吹き払ってやろう…だから今は逃げろ…」

なぜだか知らないが記憶のない自分の心に刻み込まれている言葉…
なんとなく言ってしまったが、少し気恥ずかしくなる。


「…こういうときにお前ならこういうんだろ?」

隣のメタルヒーローに振り向き、語りかけるベータ。
彼が振り向いた瞬間、なぜか死んでしまったはずの先輩の顔が思い浮ぶ…


「あ…あぁ……しかし愛と勇気でってのが抜けてるぜ?」


──先輩と…優しかった、あの先輩と同じ口癖…?
いや、ともかくこの状況の最優先はエンジェルレスキューを逃がすことだ


「こちら、ヒーロー部隊所属メタル…識別番号SPDK19842001……逃げ遅れたボーグがいる…至急イーグルジェットを……」

エレを逃がすためにウッドデッキの上でイーグルジェットに信号を送るメタルヒーロー
ウッドデッキの下では震えるエレを慰めるベータの姿があった。


「うぅ……」

「お嬢ちゃん、泣くなよ。どうせオレはデスボーグだ…いつかは別れのときが来るはずさ。それが今だったってコトだけだ。」


迫り来るバグボーグを見つめ、エレとは視線を合わせないベータ。
そんなベータの腕を強引につかんでこちらを振り向かせると、エレはゆっくりとしっかり言葉を紡ぐ…


「さっき…初めて、エレって、呼んで、くれた…よね…」


そんなこといまさら?とため息をつくベータの胸に飛び込むエレ。
突然抱きつかれて驚くベータだが、銀色の腕で優しく頭を撫でる


「だから、これでお別れなんてイヤ。絶対、絶対、絶対、帰ってきてね…
 ベータのこと忘れられないから…ベータじゃなきゃダメ…ベータのことずっと待ってる!」


無理やりベータにキスをすると、丁度降りてきたイーグルジェットにまっすぐ走り始める。


振り向いたら、立ち止まったら、彼に迷惑がかかる……だから…だから…
イーグルジェットにたどり着き、そこで初めて振り返ったエレ


──えっ!?


…涙目の瞳が何かに驚いたように大きく見開かれる…その刹那、発進するイーグルジェット
空気を切り裂くキーンッとした音が鳴り響き、砂煙の向こうにはメタルヒーローとベータのシルエット…


「Good-Bye…俺の天使さんよ……俺の心を救ってくれたのはお前だ…エレ。…さーって…ちゃっちゃと片付けるかな…」


飛び去るエレを見つめながらベータは呟く

両手を組み、ポキポキと鳴らしながら首を回すベータ
一陣の風が通り抜け、白いマフラーが風にたなびく…その姿に驚きを隠せないメタルヒーロー。


「お、おぃ!…お、おまえッ!い、いや、あ、あんたっ!そ、その姿…?!」

「アぁ?なんだ、取り乱すな、いくぞ…」


そこには大量のバグボーグを相手に立ち向かう、夕日で真っ赤に染まった2人のシルエットがあるだけだった…









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