<今日は一月一日。・・・元旦から何をやってるんだか>
年の暮れ、私はなんとなく近所のゲームショップに入ってみました。するとそこにはいつの間にかドリームキャストの試遊台が置かれているではありませんか。しかも稼働しているのは・・・『戦国TURB』の体験版!このチャンスにコレをやらずしてバカゲ−は語れません。
ですが今その試遊台は、小太りで眼鏡をかけた、いかにも「あぁ、ドリームキャスト? もちろん発売日に並んで買ったよ」というような風体のゲーマーが占拠中。
そこで、少し離れたところからこのゲーマー氏がプレイする姿を観察してみることにします。さて、この典型的ゲーマーは『戦国TURB』に対しどのような反応を示すのでしょうか。
彼はしばらくボタンをいじってじのちゃんを歩き回らせていましたが、やがてコントローラーを握ったまま少し首をかしげはじめました。どうやら、何をどうすればいいのかわからないご様子。
そのうちにだんだんと首をひねる頻度が高くなりはじめ、彼はついにコントローラーを置いてその場を立ち去りました。彼の中で今、ドリームキャストの好感度が下がったようです。ピロリロリン。
<ゲーム史をイヤな色に塗りかえる迷作>
さあ、いよいよ私の番です。いろんな意味で期待をふくらませながらゲームスタート。あのイっちゃったグラフィックや、どうコメントしていいかわからないOPストーリーは、すでに皆さんご存じだと思うので割愛します。(知りたい人はこちら)
まず、操作性。私がまだドリームキャストのやや独特なボタン配置に慣れていないせいもあるのでしょうが、かなり煩雑な感じです。
雑誌などではこのソフト、「グラフィックが女の子ウケするかも」という苦しい持ち上げ方をしていましたが、そうは問屋が下ろしません。
『里見の謎』や『デスクリムゾン』は、内容はともかく操作系統はごく単純であるため取っつきやすかったのですが、このソフトはライトユーザーやエントリーユーザーの存在をいきなり無視しているように思えます。・・・と言うより、そんなことはもともと頭にないのでしょう。
気になるゲーム本体の内容は、超高速な3D版『伝説のオウガバトル』。あるいは、洗練されたサッカーのルールをそのまま原始的戦闘に置き換えた『バーチャストライカー』。
と、ゲーマー的な表現をすればこうなりますが、実際は「子供の集団がケンカしている」と言うのが一番わかりやすいでしょう。あと、野球の乱闘とか。
プレイヤーは、敵や味方やアイテムや飛び回る謎の妖精“たいにゃん”や白い怪光線などがゴチャゴチャと入り乱れる中でじのちゃんを操作し、味方に気を配りつつ敵を攻撃していかねばなりません。
じのちゃんの武器は、剣・ムチ・花火・じょうろ・ソフトクリーム(うに味)など。
・・・『戦国TURB』について何の予備知識も持っていない方は、なに言ってるんだかサッパリわからないと思いますが、
この文章はゲームレビューです。 たぶん。
プレイして受ける印象は、“速い”の一言。ドリームキャストの処理速度を実感しました。と言うか、痛感しました。敵や味方の行動が速すぎて、何をしていいやらわかりません。いくらハードのスペックが優れていても、ゲームは人間の思考速度や反射速度に合わせて作らなければいけないと思うのですが。
画面にはあちこちに、何かで引っかいたような謎の記号が表示されています。
それが殴り書きの日本語フォントであるということに気づくのに数十秒かかりました。
あのー、読めないんですけど。
「ずぴ・ほぐの は しにそうだ」とかいうメッセージがリアルタイムで次々と表示されていきますが、それを解読し終えたときにはすでに手おくれです。「ざざげ・あぼ は しんだ」
ちなみに「ずぴ・ほぐの」とか「ざざげ・あぼ」というのはキャラの名前。
『里見の謎』の「じどう」機能を搭載していると思われます。
もちろんこの名前のおかげで、どれが誰だか全然わかりません。
これ以外にも、「ごはんをてにいれた」「みずをてにいれた」「くうきをてにいれた」などという、解読できても、どうリアクションしていいかわからないメッセージが、走馬灯のように画面上にリアルタイムで現れては消えていきます。
さらにサウンドは、一言で表現すると「電波」。
開発者はプレイヤーに何をどうして欲しいのでしょうか。ここまで「読めない」ゲームは初めてでした。
<リベンジ・オブ・FX>
他の特色を挙げていきますと、まず、このゲームはフルボイスのようです。ただしキャラクターたちはヒアリング不能な独自の言語を用いて喋るので、字幕のメッセージを読まなければ何を言っているのか全然わかりません。
それからじのちゃんがやられた場合、ドラマのように妙に気合の入ったカメラワークとオーバーアクションなポーズで劇的に死にます。
このゲームの開発費は、こういった具合に使われています。
この『戦国TURB』、確信犯を装った中にも明らかな狂気をひそませています。しかも、「売れると思って作ったのに、何の間違いかバカゲーになってしまった」とかいうネガティブな狂気とは一線を画しており、
全身全霊をかけて、このゲームを買ったことを後悔させようという、怨念めいた漆黒の波動に満ちあふれているのです。
これはもうNECホームエレクトロニクスが、
FXがギャルゲーマシンとしてサターンに完敗したことへの復讐のため、凄腕の暗殺者(戦国TURB)を送り込もうとしているとでも考えなければ説明が付きません。
受け入れるセガもセガですが。
・・・NECはドリームキャストでもう一本出すつもりのようですが、たぶんそれはダミーでしょう。
このもう一本のほうは真面目なSF調のゲームだそうです。その雑誌広告を『戦国TURB』と並べて載せるという時点ですでにヤル気のなさがうかがえます。
ある時などは、人工生命体であるカッコイイ主人公が、隣のじのちゃんと同じ珍奇なポーズをとらされていました。ダミー説を立証する証拠と言えるでしょう。
それはそうと、この二ヵ月というものファミ通に『戦国TURB』の広告は毎週載りつづけています。
確かにNECホームエレクトロニクスはそれなりに大きな会社ですが、
“ガンで死を告知され、ヤケになって金をばらまく中年サラリーマン”とか、“ロウソクが燃え尽きる前の一瞬のきらめき”とかいうイメージが頭に浮かんできて仕方がないのは私だけでしょうか。
そしてついでに店頭配布のチラシもゲット。こんなことが書かれています。
こんなゲーム他にある? ずるさと可愛らしさ、正義と悪、光と影の同居するTURB世界のみんなのおはなし(一部分)が、ついにみなさんのお手元に! どこかにありそうで、無さそうな独特で奥の深い世界ですが、操作はシンプル。わかりやすいゲームシステムとあいまって、お子様から年配の方まで、ゲーム初心者でもお気軽に、時間をかけたくない人、逆にじっくりと謎や技を極めたい方、敵を倒しまくりたい人、恐い暴力シーンが苦手な方にも楽しんでいただけるよう配慮致しました。Dreamcastのパワーで今までに無いような賑やかな戦闘をどうぞ。 フルポリゴンキャラクタで多人数対多人数のリアルタイム賑やか戦闘を実現。派手派手エフェクトも多数同時大発生し、大花火大会のような大迫力を大演出しています。
・・・脱帽です。私にはここまで『戦国TURB』の世界を忠実に伝える文章力はありませんでした。なお、このチラシには予約特典についても書かれています。
もらえるのは「とくせいにゃんにゃんチェーンつきパスホルダー」。店頭で予約した方にだけ抽選で10000人にプレゼント。
『バーチャファイター3tb』でさえまだ20万本いってないようですが、コイツらいったい何万本つくる気なんでしょうか。他人事ながら心配でなりません。
それにしても感心してしまうのですが、よくぞここまで絶妙な発売日をセッティングしたものだと思います。この手のバカゲーがハード最盛期に発売された場合は、『里見の謎』のように一般ユーザーの目の届かない魔界へと沈んでいくものです。
・・・ところが、今この時期のドリームキャストの現状。
情報に飢えきったドリームキャスト専門誌や、ポツンポツンと発売されるソフトを何とか自転車操業してしのいでいる小売店や、
そして何より、難民と化した全国のドリームキャストユーザーたちは、イヤでもこのソフトに注目せざるを得ません。
店頭の試遊台で堂々とこんなソフトが動いているのがその証拠。 異常です。
「こうなったら貴様も道連れだぁぁ!」とばかりにセガを逆恨みするNECホームエレクトロニクス。おそらく、死ぬほど楽しんでゲームを作っている開発者(もとは昔の同人ソフトだとか)。
そして話題性を優先するあまり、何か大事なものを見落としてしまったセガ。
この悪夢のような三角関係が世に産み落とした『戦国TURB』。私はこのソフトをドリームキャストの地雷だと思っていましたが、違いました。核爆弾でした。
すでに「バカゲー専科2」(出るかどうか知らないけど)の目玉記事は、飛び抜けたスペックを駆使して毒電波を放ちまくるこの『戦国TURB』に決まったも同然でしょう。あぁ、ドリームキャスト買わなきゃ。
こんにちはドリームキャスト。 そして、さようなら。
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