2009/06/20+22:45:33 

俺は(トレッキーといわれる方々に恐れ多くて)自分がトレッキーだとは言えないながらも、スタートレックシリーズが好きだ。ファンである。特に TNGの。


今までのスタートレックは、10作品とも一般向けを考えつつも『いつものドラマのロングバージョン』というスタンスで撮影されているのは否定できないと思ってる。
だからこそ、あれだけ一般向けを意識してスタートレックらしからぬマシンまで出したネメシスですら、ドラマのスタートレックという枠組みは逃れられなかったと考えている。

……今回もそうかもしれないと思ってた。逆にそうであって欲しいと思っていたかもしれない。いくらがんばってもスターウォーズにはなれないんだから、せめて俺たちが思うスタートレックの枠組みを抜け出ないで欲しい、と。

スタートレック
http://www.startrekmovie.com/intl/jp/


前置きが長くなったので、端的に言おう。

この作品は正しくスタートレックであり、スタートレックを知らない人も純粋に楽しめる作品だった

思えば、ドラマの枠組みというよりもスタートレックという言葉に呪縛されていたように思う。

映画を見に来る人は、艦隊の誓いを知っていて、そしてカーク船長やピカード艦長は冒険者であることを知っていて当然だという作りだった。
その上、カーク船長やピカード艦長が数年間かけて培った友情を知っていて当然の作りでもあった。


そんなことは、今回はまったく必要ない。
なぜならカークもスポックも生まれてすらいないのだから。


物語は 25年前。謎の超巨大戦艦の攻撃から、身重の妻を含めた乗員 800名の命を救うために勇敢に戦ったカーク船長の父から始まる。


時は流れ、アイオワ州でビンテージカーを乗り回し警察にもやっかいになる少年カークの姿があった。

同じ頃、バルカン人らしく感情を表に出さず論理的であろうと努力する若いスポックの姿もあった。
スポックは、感情を表に出さず常に論理的で理知的に行動するバルカン人と、バルカン人からすれば論理的ではない地球人の母から生まれたハーフであり、感情を爆発させてしまうことも少なくなかったためである。


十数年たってもカークはアイオワの若造であり、無鉄砲なただの乱暴者としてケンカに明け暮れていた。
そこに現れた連邦のパイク大佐はケンカで血まみれのカークを助け起こし、こう説得した。

「こんなところでくすぶっていていいのか?お前の父は 12分間、艦長だった。しかし、その 12分間で 800の命を救った。……父を越えて見せろ」

翌日、建造途中の新造艦をバックに、カークは連邦アカデミーに入学するために旅立つ決意を固めた。
たまたま隣に座った医者のマッコイと意気投合し、長く苦しい連邦アカデミーの勉学に打ち込むこととなる。


3年の月日が流れ、すっかりアカデミーの赤い制服姿も板についたカーク。
アカデミーでは、難攻不落のテストとして有名なコバヤシマルシナリオに挑戦しつつも失敗していた。
しかし、次の挑戦は必ず成功するとマッコイに軽く答えるカーク。

事実、3度目のコバヤシマルシナリオは敵艦隊を突然のアクシデントが襲って簡単にケリがついてしまう。

この結果を見たアカデミーは査問会を開く。カークが何らかの方法でコバヤシマルシナリオを改変したため、勝てたのだと主張するのはシナリオの作者であるスポック。
カークはスポック自らの口から「コバヤシマルシナリオは、恐怖と極限状態でも錯乱しない強い精神を養うためのプログラムであり、どう行動してもコバヤシマル救出に失敗し、敵艦隊に全滅させられてしまう」という事実を聞かされる。

その言葉に反論しカークは答えた。「必ず負けるシナリオなど、ない」と。


そんな査問会は突然の一報で途絶えることとなった。それはスポックの生まれ故郷バルカン星からの緊急救難信号であった。

査問会の影響で艦に配属されないカークだったが、マッコイの機転でどうにか最新鋭のエンタープライズに乗り込むことに成功する。
艦長はパイク大佐、副長はスポック、操舵士にスールー、副操舵士にチェコフ、通信士にウーフラ。いずれも最新鋭の艦船に十分なメンバーだった。

トラブルでワープが遅れながらもバルカン星に急ぐエンタープライズ。
しかし、カークは何かに気づきマッコイの静止も聞かず、通信士のウフーラを連れてパイク艦長に叫んだ。

「あの時と同じだ!25年前のあの事件と!罠だ!」

一瞬の判断で戦闘態勢を整えたエンタープライズがワープアウトすると、一緒に出向した連邦の艦隊は残骸となって宇宙を漂っていた。
そしてその向こうにはバルカン星にドリルを突き刺した謎の超巨大戦艦が。

必死に応戦するもあまりの戦力差に手も足も出ず、そして相手の艦長から 25年前と同じように申し出があった。

「攻撃を止めるための話し合いをしよう。我が艦に来たまえ、艦長」

罠だと知りつつも向かうパイク艦長は、白兵戦ができると言ったスールー、機関部長オルセン、カークに命令を下し、バルカン星の地表に突き刺さったドリルを破壊するように言った。
そして自分が捕まった後はスポックが艦長代理になるように命令する。しかし、あろうことかカークをサブとしてスポックの補佐をするようにも命令した。

カークたちはドリルを破壊するも、ドリルの目的がバルカン星の破壊だと分かったときには既に遅く、バルカン星はブラックホールに飲み込まれていくことになる。
生まれ故郷が飲み込まれるのを目の当たりにし、スポックは長老たちを助けるため単身乗り込む。入れ違いに帰ってきたカークたちを尻目に地表に降りたスポックだが、目の前で母を亡くしてしまう。

母と生まれ故郷の星をなくしてもバルカン人は感情を表に出さないとして冷静に理知的に振舞うスポック。
そんなスポックが出した結論は、速やかに連邦艦隊と合流し今後の対策を練るというものであった。

どうしても我慢できないカークは司令室で大喧嘩を始めてしまう。しかしスポックにより気絶させられ、目覚めたときには氷の惑星に船外追放となってしまっていた。


そこで意外な人物と出会う。

スポックと名乗る老人。……彼の語った可能性の未来は、あの謎の超巨大戦艦が生まれたいきさつだった。
彼こそ、その未来から来たミスタースポックその人であった。

ミスタースポックとともに流刑地のような氷の惑星で暮らすスコットと出会ったカークは、エンタープライズに戻ることに成功した。
そして、ミスタースポックから言い渡された「きみが艦長としてあの艦を指揮するんだ」という言葉を実行するため、現艦長のスポックに対し非情なまでの言葉を浴びせる。
果たしてスポックは、幼少のころのような激しい怒りの感情を持ってカークを殴りつけてしまう。

理知的で激しい感情に左右されないのがバルカン人。その自らの行為を「錯乱した私は艦長失格」としてカークに艦長の座を譲り渡し、一人立ち尽くす。
カークは艦内放送で、艦隊との合流をやめ、手遅れになる前に あの超巨大戦艦を倒そうと鼓舞する。

どのように倒すのか……そのための作戦会議の途中、スポックの声が響く。

「その作戦は非情に論理的だ。賛成する……そして私も作戦に加えてもらいたい」

激しい感情もすべて自分だと受け入れることで復活したスポックを笑顔で出迎えるカーク。
超巨大戦艦との決戦は、カークの機転とスポックの冷静な判断力、クルーたちの能力を結集し、大きな被害を出しながらも破壊することに成功した。


アカデミーに戻ったカークは、負傷し艦に乗れなくなったパイル大佐に代わり、エンタープライズの船長に就任した。
一緒に戦った仲間たちもスポックを除いて全員がエンタープライズに配属されることになる。

一方、スポックは故郷の星を亡くした同胞のためにアカデミーから去る決意を固めていた。
その前に現れる一人のバルカン人。「父上?」と声を掛けるスポックは気がつく。

フードを取って現れたのはミスタースポック。

ミスタースポックは、バルカンの同胞は私に任せて、君はカークとともに行けと語る。
その言葉に意を決しエンタープライズに乗り込んだスポックは、艦長席に座るカークに向かって宣言する。

「副長に立候補したいのだが、どうかな?」

カークの答えは決まっていた。二人の正反対の性格を持つ男たちは、こうしてエンタープライズによる航海を出発する。




本当に面白かった。久しぶりに面白い映画を見た気になった。

映画だから人間ドラマを深く掘り下げるのもちょっと難しい部分もあるし、何よりトレックらしからぬ派手な艦隊戦だってある。
ドラマを見慣れた人だったら、ちょっと展開速いよって笑っちゃう部分だってあると思う。


でも、もう一度言おう。

この作品は正しくスタートレックであり、スタートレックを知らない人も純粋に楽しめる作品だった

俺は生粋のトレッキーでもないし、今回の映画を認められないトレッキーも多いかもしれないと思った。
でも、最初に言ったように、この映画はスタートレックを知らなくても楽しめ、スタートレックを知ってもらうためにも最適な映画だと言いたい。



最後に、スタートレックファン(と言っても新スタートレックファンだが)として。

スタートレックを知らない人には、二人の才能溢れた正反対の性格を持つ若者が居場所を追い求めて苦悩し、友情を育む映画として見れるだろう。
スタートレックのファンには、平行世界で起きた可能性の過去の1ページである USSエンタープライズの処女航海としてワクワクできるだろう。

カークは何も恐れずありとあらゆるチャンスに目を光らせ、論理を打ち砕きながら前進する。
スポックは思慮深く理知的に常にベストの選択を取り続けながら前進する。

そして、二人が手を組めば、どんな困難も冷静でかつ大胆に突破して切り開いていける。

これこそスタートレックで見たカーク船長とミスタースポックの二人三脚の友情であり、魅了された部分でもあると思う。

でこぼこコンビの二人三脚と人間ドラマがスタートレックの肝であり、今回の映画を見て「あの二人の活躍を見てみたい」と思った方は、少し人物設定が違うけど TOSを見て頂ければと思う。
その上で、俺の好きな TNGとかも見てもらえるとうれしいなと思う。無鉄砲艦長と論理的副長のでこぼこコンビとは また違った、堅物ハゲ艦長と女たらし副長とアンドロイドのトリオが見られるから。

TOS … 日本名:宇宙大作戦で知られるスタートレック一作目
TNG … 日本名:新・スタートレックで知られるスタートレック二作目



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