将棋って、たまに脚光を浴びて世間で流行りそうになったりしますけど、その度にブーム自体が喪失しますよね。 ここ10年くらいの間なら、羽生名人が様々なタイトルを奪取してた頃が将棋ブームのピークだったと思うんですが、そこから将棋人気が持続しそうになると、途端にヒカルの碁とか林葉直子とか羽生将棋64が邪魔しにきたイメージがあります。 あと週刊少年サンデーの歩武の駒とか。 まあ、それでなくとも将棋には地味なイメージが付いて離れませんけど。 つまり、麻雀ほどのドラマ性もなく、チェスほどお洒落でもなく、囲碁ほどチビっ子と集英社に好かれていない将棋。 そういう認識が災いしてかどうかは分かりませんが、レトロゲームコレクターの間でも将棋ソフトは無視される傾向にあるようです。 今回ご紹介する『谷川浩司の将棋指南3』も、まさにそんな境遇の中に埋もれたソフトで、まだ僕が小学6年生だった頃、将棋のルールもロクに知らない父親が買ってこなかったら、僕自身も存在すら無視していたであろうタイトルです。 まあ、買ってきた父親もまさか10年経って息子が、そのカセットをワゴンセールから買い戻してくるなんて想像してなかったでしょうけど。 本作は、ポニーキャニオンから発売された将棋ソフトシリーズの3作目のはずです。 「はず」と不確定な語尾なのは、前作の『谷川浩司の将棋指南2』がファミコンのカセットロム、ディスク、書き換え用と『2』だけで3作も発売されていたり、そもそも初代『谷川浩司の将棋指南』がMSXで発売されていたりと、関連ソフトの情報が安定してなくて、書いてて不安だからです。 タイトルに名前を配されている『谷川浩司』という人、確かここ数年、羽生善治氏と戦っていた名人とか竜王とかの人だったと思うんですが、詳しいことはよく知りませんし調べる気もありません。 (本レビュー内では将棋に対して愛情のカケラもない発言が目立つと思われますが、これはネタを意識したとかではなく、単に筆者が将棋嫌いなだけなんで気にしないでください) 同『2』は対局や詰め将棋などが収録された、有り体に言えば古典的な内容の将棋ソフトだったようですが、私の手元にある大技林(’97年春版)曰く、『3』は「バラエティ豊かな構成になっている」とのこと。 さっそく、ゲームを起動してみます。 なるほど、前作に比べて選択できるゲームの数も増えていますね、はさみ将棋にスロット将棋、棋譜鑑賞…。 …ん? 『スロット将棋』。 世の中には交じり合うこと自体が異質な言葉というのがありまして、例えば納豆カレーなんていうのはそれの最たる例ですが、さて。 どうやらこの『スロット将棋』、『3』から新しく搭載されたゲームモードのようで、つまり大技林に掲載された紹介文「バラエティ豊か」というのは、「この世に存在しない物をも無理やりブチ込んでいる」という意味を拡大解釈したものだと想像できます。 そして、本レビュー内で僕が最も声を大にして語りたいポイント、ひいては『谷川浩司の将棋指南3』の存在価値のうち大部分を担う概念が、この『スロット将棋』なのです。 私的視点から見る『谷川浩司の将棋指南3』存在価値の内訳 ↑はさみ将棋のガキ それでは、この『スロット将棋』という、名前だけではさっぱり見当のつかないゲームの解説に移ります。 ↑『スロット将棋』スタート時 盤面は、普通の将棋と同じように駒が並んでいます。平常通りです。盤面は。 以下、順を追って『スロット将棋』のルール説明を行います。 画面左側と右側で時空が歪んでいる理由も含めて。 1.自分の手番が来ると、画面右側のスロットが回転します。 スロットのリールには「歩」「香車」など将棋の各駒、そして数字の『7』が描かれています。 2.Aボタンを押し、スロットを止めます。 ボタンを押すと各リールの回転が止まり、枠内に絵柄が表示されます。 3.ここでようやく駒を動かす作業に入ります。 ここで動かせるのは、スロット上に表示されている駒のみです。 この制限を守って、盤上の駒を移動させましょう。上の場合は『歩』と『金』のみが移動可能です。 ちなみに『7』は、どの駒にも対応していません。 以上の動作が終わると、相手の手番へと移ります。 この一連の動作と、基本的な将棋のルールに則って『スロット将棋』はゲームを進行していきます。 『スロット将棋』の特徴は、自分の手番が回る度に動かせる駒が制限されるところにあります。 つまり、このゲームのキモは本来存在する将棋の戦略どおりに進められないジレンマ感にあるわけで、対戦中よく陥りやすい状況の一例を挙げると、
リールに描かれている絵柄の数は弱い駒から順に多く描かれていますので、『歩』『桂馬』などは動かしやすく、逆に『角』『飛車』は頻繁に動かすのが難しくなっています。 よって各駒の能力差が従来の将棋と比べて実に曖昧で、都合の良い出目に任せて自分の陣地へ無理やり攻め込まれたりすると、たかだかヒゲ親父一匹に戦力を壊滅させられるクッパや、急ごしらえの戦闘ロボに秘密基地を破壊されるワイリーの気分が味わえます。 将棋で。 特別ルール: ・『7』が3つ揃うと画面上部中央に「FEVER」と表示され、7回連続でスロットを回し、駒を動かすことができます。 通常の場合、スリーセブンが出る確率はかなり低いですが、これを1度引き当てるだけでいきなり敵陣を半壊させることができます。 いよいよ将棋の戦略性が遠くなってきました。 そんな感じで、谷川浩司とかいう「将棋の国のえらい人」の名前を冠に掲げている事が胡散臭く感じられてくる『スロット将棋』ですが、これはこれで従来の将棋とは離れた部分で楽しめます。 既存の将棋にランダム性が加わったこの感覚。 僕は、同じくファミコンで発売されたハドソンのボードゲーム『キャッスルクエスト』を連想しました。 知らなきゃ別にいいです。 移動条件にスロットが介入している時点で既に将棋ではないんですが、まあファミコンをお持ちの方は洒落の利いた小粋なパーティグッズの一種として、楽しんでみてはいかがでしょうか。 と。 ここでこのテキストの終わりとなれば、本作は隠れた佳作ゲーム、例えるならば『超惑星戦記メタファイト』と同類項になるのですが。 このゲーム、というかこの『スロット将棋』は、そこから『おにゃんこTOWN』レベルにまで引きずり下ろされる程の、大変な問題点を抱えているのです。 実はこのスロット、 目押し可能。 リールの構成を見極めれば、好きな駒を動かすことはおろか、スリーセブンを出すことだって楽勝です。 そこそこ速いリールの回転と若干のスベリを見抜けば、 途端にゲームが破綻します。 …まあ「破綻」と言っても、こんな知ってりゃ誰でも勝てるような事を実用的に使いこなす場所なんてそうそう無いです。 事実、過去に一度だけ『スロット将棋』の対人戦で目押しをした時だって、対戦相手だった弟から少年ガンガンの角で殴られましたし。 よって将棋が苦手な僕はこの仕様を、ゲームバランスの崩壊というより、COMをルールに則ってブチ殺す歪んだストレス解消の方法として認識しています。 電源切るとき、凄ぇ寂しいですけどね。 圧倒的戦力差にショックを受けたのか、相手の顔色も気持ち悪いくらいに紅潮してますが、目押しさえ無ければ普通に楽しめるゲームですんで、ファミコンを所持されていて興味を持たれた方は、ぜひ中古屋で探してみてください。 こないだ福岡の某ゲームショップに行ったらビックリするくらい余ってましたし。 |